封印図書と圧縮詠唱
この図書館に通い詰めるようになってから一年。
ずっと気になっていた扉がある。
封印図書区画。
焚書してしまうには惜しく、諸人の目に触れさせるには毒という書物が封印図書に指定される。
そして、それらは封印図書として各地の大教会にて隔離されている。
閲覧するには大司教以上の位階が必要になるが、リーシャは教皇から称号を授かっており、例外として封印図書の閲覧を許されることになった。
封印図書は持ち出しも写本も禁止されているが、リーシャの記憶力に掛かればその必要すらない。
旧世界の技術は非常に興味深いものが多い。
中でも兵器技術は今の世界よりも数段進んでいたようだ。
『火薬』
の、製造がこの世界で厳重に管理されている理由も、それに由来するのだろう。
もしも優れた火薬が一般流通すれば、一気に兵器産業は加速する。
魔力や武術を持たない一般市民さえもが、重大犯罪を引き起こすようになる。
この書庫にある書物は確かに危ういものばかり。
だが、上手に利用すれば、有用なものも沢山ある。
いずれワイズリートが覇権を握ったならば、幾つかの技術は解放されることになるだろう。
・・・
リーシャが興味を持ったのは、旧世界の言語だ。
それも人間用のものでなく、機械に命令を与えるための言語。
幾つかの数字と記号のみの組み合わせで書かれているそれは、もし、術式詠唱に利用できるならば、相当の有用性がある。
自分でルールを定義し、それをイメージすれば、一度に複数の術式を発動することも可能。
リーシャは、それを『圧縮詠唱』と名付け、練習することにした。
実際には自分にどんな術式が備わるのか不明であり、しかも、魔術回路に魔力を流すわけにもいかない為、当面は言語とイメージを結びつけるだけの作業。
しかし、もし実用化できれば、最強の術式使いに相応しい技能。
「一番に術式一を設定、二番に術式二を設定」
「実行」
「これを数式詠唱として定義」
「〇一、術式番号、〇二、術式番号」
「九九(実行)」
「十文字詠唱で二つの術式を同時に展開」
「イメージとしては、こんな感じかな」
自分専用の新しい言語を作り出す等という発想は、天才的。
通常の詠唱というものは、イメージの偏りを少なくするために詩編を朗読する形式が取られるが、この方法であれば、偏りすら起きない。
純度の高いイメージで精霊干渉するのだから、術式の発現速度も、発現効果も期待出来る。
リーシャは自立式の魔導書になるのだ。
・・・
春、夏と脚早に季節は過ぎる。
その間にも、様々な出来事があった。
長雨による耕作不良、反面、湖では例年にない豊漁。
末端の教会による寄付金の横領、金貸し商人の屋敷には焼き討ち。
アーシアンの街は噂に事欠かないくらいには、事件が起きる。
その間も、リーシャは通年主席を維持し、もうすぐ運命の日がやって来る。
術式回路、神経の最終点検。
そして、術式獲得。
いよいよ聖女となる日が間近に迫っていた。




