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氷結のシャアリィ  作者: 黒猫テラス運営部
外伝・受難の聖女編
503/570

二度目の手術台

期末試験。

それが終われば、他の地方よりも少し長めの冬季休暇。

学舎に通うようになってから一年。

来年の秋の終わりには、この学舎ともお別れだ。


「今回の試験、結構、難しかったね」


等とクラスの面々は話しているが、リーシャにしてみれば欠伸が出る。

以前のようにリーシャに不快な視線を送る者はいなくなった。

だが、アリスがいた頃のように愛想が良いわけでもない。

皆、リーシャとの距離を理解している。


孤高の才媛。

理想的な立ち位置だ。

講師や教授でさえも、授業中以外はリーシャを気に掛けることもない。


・・・


冬季休暇二日目。


「リーシャ、悪いが昼食はこれだ」


と、言ってシュラインから渡されたのは、指の第一関節程のチョコレートの欠片三つ。

それが意味するのは、あの忌々しい手術台に上らねばならぬということ。


「明日にしない?」

「今日は少しばかり気分が優れないんだ」


作り笑いで逃げようとしても、シュラインは逃してはくれない。


「おやおや、ワイズリートに頭を撫でて貰えば気分が晴れるとでも?」

「チョコレート好きだろう?」

「これでも、私はきみの機嫌を取っているつもりなんだがね?」


リーシャは不貞腐れながら、


「この外道、にやにやしやがって」

「・・・そんなに私が痛がる所が見たいのか」


シュラインはわざとリーシャを怒らせて、痛みに耐えさせるつもりなのだ。


「ああ見たいね」

「その可愛らしい顔が苦痛で歪むと私はスカっとするんだよ」

「美人は何しても絵になるからいいねぇ」


心の中では、シュラインだって辛い。

リーシャの身体が丁寧に、厳重に手術台に拘束されてゆく。

今回は痛みで舌を噛まないように口にも拘束具が着けられる。


「じゃあ、始めるよ」


そう言うと、何かの液体が右の融合義足の外殻にぶち撒けられた。

それは酸の一種、金属浸食液・・・つまり、生きている義足外殻を殺すための液体。

生きていると言っても実際に生命があるわけではなく、義足外殻が肉体を吸引する性質を停止させるための措置。


しかし、イキモノと疑いたくなるような反応を見せる。

ぎちぎち、ぐちぐちとリーシャの肉体から剥がされることを拒絶するように、必死で抵抗する音が聞こえる。

その度、皮膚の表面は剥がれ血が滲む。

遮断されていた空気が隙間に流れ込めば、外殻の抵抗は急激に失われ、一部の皮膚に齧りついているような状態になるため、シュラインがそれを支えながら、さらに浸食液を注ぐ。


浸食液は強酸ではないが、それでも傷口には強烈に沁みる程、効果の強い液体だ。

まるで足を焼かれているかのような激しい痛みがリーシャを襲う。

ぶるぶると震える拳の隙間からは血が流れ、苦悶の呻きを挙げる。


「ほう、随分と成長したね」

「叫び声ひとつ上げないとは・・・」

「次は、ちょっとばかり痛むが、その調子で頼むよ」


剥き出しになった皮膚のない脚の筋肉を和らげるために、シュラインが揉み解す。

流石のリーシャも堪らず、断続的な咆哮を上げる。


「うごっ・・・ぐぐ・・・ふぅ、ふぅ、ふぅ・・・ごぉあ」


凄まじい精神力。

触られるだけでも目から火花が出るような痛みに耐え続ける。

シュラインの手にあるのは、新しい外殻。

色艶は以前のモノと変わりないが、その長さは三センチ程も長く、成人女性の膝下と遜色ない理想的なフォルム。


「今まで窮屈だっただろう?」

「身長も高くなるし、なにより形が美しい」

「痛みに耐える分だけの価値はあると、私が保証するよ」


そして、少しばかり成長した足指に合わせた新しい指部品。

さすがに指の交換だけは、リーシャも悲鳴を上げざるを得ない。


「ぎいいいいぃいいいぃいいい」


一瞬にして指を捥ぎ取られるような感覚に耐えられる者などいないだろう。

だが、それでも失神には至らない。


「終わったよ」


と、シュラインがリーシャに告げる頃には、リーシャの疲労も頂点(ピーク)

新しい融合義足の定着まで、また、一晩をこの拘束ベッドの上で過ごさねばならない。


「暫くは、又、大人しくしてもらうよ」


世話係とリーシャを残し、シュラインが手術室を出た。

リーシャは自らの指で、口の拘束具を外し、世話係に甘味を要求する。


「ショットは何をしている」

「私がこんなに辛い思いをしているというのに・・・」


ワイズリートがこの場にいないことだけが、リーシャにとって不満だった。


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