称号の真相
「教皇様が、称号を授けた!」
「それも獣人の少女に・・・」
称号。
十年に一人、与えられるかどうかという名誉。
教皇に才を認められたという形の無い勲章。
否、勲章など到底及びもしない程の価値を持っている。
何時、誰に、どの勲章を与えたかなど、教皇本人は覚えてはいない。
しかし、称号は明確に周囲の者の記憶にも残るのだから。
本来であれば、リーシャの称号獲得はアーシアン全土を駆け巡る程の出来事だ。
だが、そうはならない。
謁見を見届けた聖職者たちは、口を閉ざした。
まるで示し合わせたかのように、皆がリーシャの称号獲得などなかったかのように話題にしない。
それを口にすれば、成人前の獣人の少女よりも劣っていることを自分で認めることになる。
その事実がなかったかのように、皆が忘れ去るまで。
『混沌』
教皇が何故、リーシャに称号を与えたのか。
それは詰まる所、自己満足だ。
自分のものにならないならば、称号という烙印を押すことで自分の所有物だと誇示する。
酷く歪んだ欲の発露。
本当の所、教皇が最も気に入っているのは、リーシャの可憐な容姿。
才のあるなしなどどうでもよい。
少しばかり記憶力が良い?
暗算が出来る?
芸術的な表現力?
それが自分にどんな得になるというのか。
そう思えば腹立たしく、誰の手にも掛からぬようにしてやろう、と。
・・・
さすがのワイズリートも、そんなくだらない理由など、わかりはしない。
ただ、『称号』という免罪符はありがたい。
この先、リーシャが何かやらかしても、余程のことでなければ罪に問えない。
術式を獲得できる状態になるまで、まだ、あと一年以上必要だ。
頑強な体躯を持つセロニアスだが、所詮、リーシャはまだ子供だ。
多少でも武術に心得のある者とは戦えない。
そういう意味でも、『教皇のお気に入り』であれば、危険は減る。
「リーシャ、少し口調を変えてみようか」
「『魔界の騎士』みたいな感じに」
ワイズリートが、何やら思いついたようだ。
「どうして?」
「そうしろと言うなら構わないけれど?」
リーシャが首を傾げ、真意を問えば、
「そのほうが教皇のお気に入りに相応しいからだよ」
「勿論、臨機応変にね」
「きみに取り入れば、教皇と御近付きになれると勘違いしてる輩を利用することだって出来るかもしれないだろう」
「絡め手は多い方がいい」
そういうものかと、訝しみながらも、
「妾に取り入ろうとは片腹痛い」
等と乗り気だ。
「普段は今まで通りでいいけれど、ね」
「良くも悪くもきみは既に有名人になってしまった」
「気弱な態度では面倒事は増える一方だ」
では、そういうことで、と、二人は視線を交わす。
考えてみれば、称号授与もひとつの受難であるのかも知れない。
・・・
気を紛らわせるものがなければ、リーシャは常に不機嫌だ。
その理由は当然、体中の痛み。
最近では成長に伴う様々な変化もあり、痛みは大きい。
特に骨格。
十分に魔力を保持している融合義足周辺は、骨密度や筋力も改善された。
義足が少々合わなくなってきている。
「予定よりも少し早いが、年明けには成長を予測した義足に換装しようか」
と、シュラインが言えば、リーシャは顔を青くする。
鋼でありながら、触感を感じる程に馴染んだ義足外殻。
それを換装するということは、足の皮膚を剥がされるに等しい。
しかも、今度は麻酔なし・・・。
考えただけで息が止まる。




