墓標
「マッカーシー・・・通り名は堅物マーシー」
「肩幅がバカみたい広くて、どんな攻撃も可能な限り防いでくれたチームの兄貴分」
「まぁ、私は末っ子みたいな立場だったからね」
アイシャが最初の墓標に上等な酒と薔薇の花、次の墓標にも花を添える。
「イルマ・・・世話焼きイルマ」
「酔っ払うと手近な男を口説くか、昔の恋愛話で絡んでくるけど皆、ちゃんと聞いてあげてたよ」
また花を一つ。
「ベリアス・・・うっかりベリアス」
「回復薬を持ち忘れて、よく死にそうなるお調子者。でも、不思議とちゃんと生き残る」
・・・
「サンドラ・・・薄情者のサンドラ」
「滅多なことじゃ泣かない、弱音を吐かない、クールな治癒術師。猫が大好きで私は可愛がってもらった」
最後の一本。
「リュウガ・・・気取り屋のリュウガ」
「ぶっつけ本番の火炎術の新技は成功したことがなかったよ。でも、陽気で女の子に優しかった」
アイシャが弔慰金で買ったのは、見事な大輪の白い薔薇五本。
帰りにバーに寄ったら、それで足が出るような薄っぺらい銀貨ひと握りがギルドからの餞別。
墓地の隅に置かれた墓標の下には、何も埋まってはいない。
ただ、そういう名の冒険者がいたというだけの風化する前の記憶の証。
冒険者は皆、それなりに稼いでいる。
命を掛けて戦い、日々の糧を得ているのだから高給は当然だが、死なないことが前提。
死んだら実に呆気ない。
何時死ぬかわからない日常の中で、熱心に貯金をするような冒険者は少ない。
冒険者が持ち帰る迷宮の物品は様々なモノがあり、中でも魔石は暮らしには欠かすことの出来ない物だ。
火の魔石はどんな木材を燃やすよりも便利だし、水の魔石は井戸掘りの手間を軽減してくれる。
地の魔石は建物の土台となり、風の魔石は畑を豊かにしてくれる。
だから、迷宮に近い街は活気があるし、生活基盤もしっかりしている。
そういう場所では戦も起きにくいし、治安も安定するのだ。
この世界には数知れず迷宮が存在するが、既に完全に踏破されたものも多い。
迷宮の踏破とは、全ての地図が明確になり、そこに潜む最上級の魔物が駆逐されたことを意味する。
お宝の消えた迷宮は、徐々に廃れて忘れられ、また何十年、何百年を掛けて再生される。
そう考えれば、冒険者の仕事は鉱山夫のようなものだ。
命掛けで採掘し、それを元に街を発展させる。
迷宮は人々の暮らしに密接に関わっているのだ。
だから、冒険者は子供たちにとって憧れの存在であると同時に、親達からは忌避すべき職業でもある。
他に道がない、或いは極端に冒険者向きでない限り、ギルドの門を叩くことは憚られる世界だ。
故に冒険者同士、特に同じパーティで生活を共にした仲間は家族同然。
今、アイシャは何を思っているのだろうか。




