目立つふたり
シャアリィ・スノウが類稀なる天才であることは間違いない。
瞳と揃いの肩まで伸びた金色の柔らかな髪、ほんのわずかに雀斑があるだけの端正な顔立ち。
身長は同世代の中ではやや低めだが、均整の取れた体格。
水、氷結の術式だけでなく、手先が恐ろしく器用な彼女は、短剣術も群を抜いている。
並の戦士ならば剣を抜く隙さえ与えず、その動体視力は不意に放たれた暗器をも躱す。
ギルドから受けるクエスト達成率は一度も失敗なしの十割。
そんな彼女を誰が戒めることが出来ようか。
彼女は少数パーティか、単独行にこだわる。
分け前の多い少ないというみみっちい話も嫌いだが、それよりも厭うのは他人と歩調を合わせることだ。
リザードマンの群れが出現しても、陣形を取る手間さえ面倒で他の者が盾を構え剣を抜く前に、術式一つで片付けてしまう。
そんなことをしていれば、例え均等に報酬を分配したとしても、敬遠されるのは当然。
次第に誰も彼女に声を掛けなくなった。
アイシャ・セロニアスは、東方から伝わった片刃刀剣の使い手。
容姿が目立つと言う点については、シャアリィに劣らない。
しかし、アイシャは見た目に反して振る舞いは実に大人しく、先輩冒険者には従順。
礼儀正しく、あらゆる場面で学び、経験を積む彼女を多くの冒険者が認め、親しんでいた。
剣術だけでなく、あらゆる武具、体術、そして気配遮断などの技能をつかいこなす斥候、中近距離戦のエキスパートだ。
悪夢の迷宮から帰還して半月後、二人は揃って冒険者ギルドに顔を出した。
普段、愛想の良いアイシャも他の誰かに声を掛けることもなく、カウンターで粛々とパーティ全滅の報告を入れた。
「未踏領域の境界付近で、フローズン・ドラゴン一体と遭遇」
「撤退戦を試みるも、敵戦闘能力は我々を遥かに凌ぎ、私のみが辛くも逃走するに至った」
「マッカーシー、ベリアス、サンドラ、イルマ、リュウガの五名は地下七階層から六階層の道中で死亡」
「遺体及び遺品の回収は極めて困難であり、今後の捜索は想定し得る危険に比して益のないもの、と、報告します」
ざわめくギルドのロビー。
日頃の行いが余程認められていたのか、誰一人アイシャを責める者、揶揄する者はいない。
ただ、皆、帰らぬ同業を思い、ある者は静かに涙し、ある者は顔を覆う。
悲痛な息遣いと小さな嗚咽だけがそこにあった、が、続いて放たれたアイシャの声で場は一変する。
「追加の報告として、私は今後、シャアリィ・スノウとパーティを組み、雪辱に挑みます」
静かだった群衆の中から、驚嘆、叱責のような声が上がる。
「シャアリィはヤバいだろう」
「確かにちょっとばかり強いが、チームプレイが出来るようなヤツじゃない」
「アイシャ、もっとマシなメンバー、せめてベテランと組んだほうがいい」
「悪いことは言わねえ・・・フローズン・ドラゴンは諦めて、地道にやりゃあいいじゃねえか」
シャアリィは何も言えない。
(そうだ、これが今までの私の評価だ。
少しばかり腕に覚えがある程度の生意気で世間知らず、新参者の小娘)
代わりにアイシャが吠えた。
「私には!フローズン・ドラゴンを撃つ同志が必要だ!」
「行儀が悪いくらい別に構わないし、経験不足でもいい」
「シャアリィは強い」
「いますぐには無理でも、私達は必ずフローズン・ドラゴンを討ち取り、仲間の仇を撃つ」
アイシャの声色には、落胆と怒りが入り交じる。
「ギルドが総力をあげて私のドラゴン討伐に付き合ってくれるのか?」
「私のパーティの意趣返しのために戦ってくれるものがいるのか?」
皆、眼を伏せ、顔を背け、その問いに答える者はいない。
カウンターから労いの挨拶とわずかばかりの弔慰金が手渡され、アイシャがそれを受け取る。
シャアリィに起きたことに関しては一切報告せず、やり過ごすつもりだ。
二人が出口に向かって歩を進めるとそれを遮る者は誰もいなかった。
しかし、二人がギルドから出るのと同時、シャアリィを快く思っていなかった連中の嘲笑が聞こえてきた。
「龍種をペアで狩るなんて正気じゃねえ」
「あの名高きセロニアスも仲間を殺されてイカれちまったか」
「ドラゴンなんて相手にするにゃあ、命が幾つあっても足りねえわ」
「ひとりだけ逃げ帰ってきたんだから、罪悪感と羞恥心で引っ込みつかねえのさ」
シャアリィの顔色が憤怒に染まる。
自分のことを嘲り嗤うのは許せる、だが、仲間を失ったばかりのアイシャを悪く言うことは許せない。
特に最後に聞こえてきた一言にキレた。
「くっそごみ野郎虫けら風情が、知ったような口聞くな!」
踵を返しギルドに殴り込もうとするシャアリィをアイシャが宥める。
「そう・・・たかが、知ったような口ですよ・・・あの恐ろしさを本当に知っているのは相対した者だけです」
「知らないほうが良いことだって、この世界にはあるでしょう」




