白毛獅子アイシャ・セロニアス
罪悪感に身体を震わせて、獣人の少女はそう告白した。
「ごめんなさい」
「私達がしくじらなければ、こんなことには・・・」
よく見れば、アイシャ自身もボロボロになっていた。
凍傷や切り傷、シャアリィと同様に五体満足であることがかなりの幸運であったことは一目でわかった。
元々、シャアリィは深く落ち込むような性格ではない。
現時点で、生きてるか、死んでいるかはともかく、迷宮から脱出できたのはアイシャのおかげだ。
「・・・そうだったんですか・・・」
「でも、あなたのせいではありません」
「私は私の意志であの階層まで潜ったのだし、大きなアクシデントが今まで無かったほうが不思議なくらい」
「あなたも無事でなによりですよ」
「仲間の方は・・・その・・・言葉が見つかりませんが・・・今は、お互い戻れたことを喜びましょう」
「勿論、そんな気分でないことはわかっているつもりで・・・」
今のシャアリィがアイシャに掛けられる精一杯の慰めの言葉。
フローズン・ドラゴンと想定外の場所で遭遇してしまったのは、アイシャだけの責任ではない。
自分の力を過信し無茶な単独行をしていなければ、そもそも、こうはならなかった。
シャアリィは自己中心的な反面、自己責任を重んじる。
そう本人から言われただけでも、アイシャにとっては十分に意味のあることだった。
「さて・・・これからどうしましょうか」
それは二人の少女にとって共通の問題だ。
一方は意図せず魔人になってしまい、もう一方は仲間を全て失った。
きっぱりと冒険者稼業から足を洗い、地道に宿屋や商人の元で働くという選択肢は勿論残されている。
「「私は」」
と、二人同時に言葉を発したが、見つめ合ったその表情で互いの選択を理解した。
残りの選択は、共に行動するか否か、ということくらいだろう。
見つめ合う互いの瞳には、ギラギラとした報復の炎があった。
ここで折れるわけにはいかないという闘志が剥き出しになっていた。
二人とも、まともな神経ではない。
圧倒的な戦闘力を持つ恐怖の対象に、再び挑むなどという発想は常人には理解不能。
それも年端もいかぬ少女が、自ら選択しなければならない理由など・・・。
「「他に生き方を知らない」」
所持していたスキル、めぐり合わせ、様々な偶然で辛くも生き残ったばかりだと言うのに。
アイシャが考えるに、単独行で地下五階まで行けるような魔術師は滅多にいない。
迷宮下層に近づく程に複数の魔物と遭遇することも増え、そういった戦闘を前衛なしでクリアするには相当の実力が必要だ。
しかも、フローズン・ドラゴンのブレスを受けてすら蘇った強者だ。
仲間にするには申し分ない。
シャアリィは、正直な所、少しだけ戸惑っていた。
自分の身体のことが不安でたまらない。
魔人になった自分がそれを隠して冒険者を続けても大丈夫だろうか。
独りで迷宮に潜るのが怖かった。
でも、そんな自分勝手な理由で、仲間を失ったばかりのアイシャに受け入れてもらえるかどうか。
だから、ここは判断をアイシャに委ねることにした。
「私は、アイシャさえ良ければ、一緒に冒険者を続けたいと思う」
「とは言うものの、七階まで行ける程強くはないし、足手まといかも知れない」
「それに魔人であることで、面倒も掛けてしまうだろうし」
それを聞いたアイシャは即答する。
「是非もない」
「ご一緒して頂ければ幸いです」
「如何にフローズン・ドラゴンとは言え、やられっぱなしで逃げるのは名折れ」
「白毛獅子セロニアスの名に掛けて、必ずヤツを仕留めます」
「それには、あなたのような強力なパートナーが必要です」




