旅に出よう
「今の私達の実力では、フローズン・ドラゴンには勝てない」
「それはシャアリィにもわかるはず」
「アレを倒すには、氷結属性以外の攻撃魔術と、戦闘継続できるだけの氷結耐性が必要だ」
アイシャの言葉にシャアリィも同意する。
氷結耐性がなければ接近戦は不可能、術式一撃で倒せるような相手ではないのだからそれは必須。
氷結以外の術式がなければ、足止めもダメージディールも出来ない。
今、このペアでフローズン・ドラゴンと戦うのは無為な自殺行為と何も変わらない。
いくらシャアリィが魔人でも、凍らされてバラバラに砕かれてしまったら当然に死ぬ。
「他に仲間を集めるっていうのはどう?」
ちらっとシャアリィがアイシャの顔色を伺う。
「シャアリィなら、少数でフローズン・ドラゴン討伐やるっていうパーティに参加する?」
肯定する言葉など見つかるはずもない。
もし、他の誰かがフローズン・ドラゴンと戦うと言い出したら、正気を疑う。
つまりは、自分たちだけでレベルアップして有用なスキルを習得するしかない、と、いう結論。
仮に凄まじい手練が協力してくれるなら勝率も上がるだろうが、そんな者を雇用する金も伝手もない。
「周辺の未踏破迷宮の中でも、小規模な所を目指そう」
「それを何度か繰り返せば活路も見出だせるし、私達の能力も上がるだろう」
アイシャはまともにやる気だ。
シャアリィはついつい近道を探してしまう。
だが、今回のことで少しばかり懲りた。
ここはアイシャに従うべきだろう。
「まぁ、ギルドであんな啖呵切っちゃったから、今更此処の迷宮でレベルアップってのもね」
「それに、あの迷宮は地下二、三階より先は暫く立ち入り禁止になるだろう」
「そうなれば、レベルアップどころじゃない」
「クラス3の冒険者パーティが一矢報いることもなく全滅したんだ」
「他の奴らもビビって深部には潜らなくなるだろうね」
アイシャの言う通りだろう。
冒険者ギルドのクラス分けは、ざっくりとしている。
個々のレベルは問題にしない。
加入一年未満の新米を0、二桁のクエストをこなした一人前で1、経験と実績が伴うベテランと認められたなら2、抜群の腕利きが3。
マッカーシー・パーティは、ギルド内でも五指に入る有力なクラス3パーティだったのだ。
それを圧倒的な力で屠った龍種がうろついている迷宮。
浅い場所でさえ好んで入りたがる者はいない。
いるとすれば、空いている迷宮で効率よく稼ごうという多少でも腕に自信のある輩か、訳ありの食い詰め者。
降りられる階層の制限が付けばアーシアンに拘るより他の迷宮に遠征を選ぶだろう。
殆どの冒険者は北で新しく見つかったナセルバの遺跡に流れるのではないか。
ナセルバの迷宮規模は巨大らしく、踏破に200年以上掛かるとも言われている。
それに対してアイシャは違う迷宮を提案した。
「レリットランス迷宮がいいんじゃないかな」
「マップの殆どが攻略されているものの、まだ、最深部は残っている」
「私達にも最深部アタックのチャンスがあるかも知れない」
「それに迷宮周辺にも多少手強い魔物が徘徊しているから、レベルアップにはちょうどいい」
(アイシャはクラス3パーティに居ただけあって、色々なことを知っている。
今は話したがらないだろうが、何時か、私と出会う前の冒険の話を聞きたいな)
シャアリィの思惑を察したのか、アイシャは軽く微笑んで、
「私の冒険譚は機会があれば、何時でも話すよ」
「冒険譚なんて格好いいものじゃなくて、失敗から学んだことや、運よく上手くいったことだね」
「そういう知識は、今のシャアリィにはとても重要だ」
「恐らくあなたのほうが強いだろうけれど、経験なら私のほうが積んでいる」
「だから、気分を悪くせず、耳を傾けてほしい」
シャアリィはそんなアイシャを心強く思った。
「是非、お願い」
「私はもっともっと謙虚に学ばなければならない」
「それに今置かれている自分についても知る必要があるから」
シャアリィはアイシャに対して深い信頼と尊敬を持ちつつあった。




