素足と文化祭
短い夏。
九月を迎え、学舎の授業が再開される。
リーシャはそこで一つの決断をした。
他の女子生徒のように、短い三つ折りのソックスを履くことにした。
この脚は、ワイズリートとシュラインがくれた大切な脚。
それを隠していた自分を恥ずかしく思ったのだ。
例え、皆がこの脚に恐怖しようと構わない。
自分には、ワイズリートがいるのだから。
登校初日。
当然、皆の目はリーシャの脚に向けられる。
その視線は様々だった、憚りもなく注視するものもいれば、横目で眺める者、あえて見ないようにする者、そして、何も変わらないという振りをしながら顔を引き攣らせる者。
リーシャにすれば、その全ての反応が面白い。
「セロニアス、すっげー恰好いい義足じゃん!」
「超強そうだな」
と、一部の男子生徒からは人気だ。
「ああ、超強いよ」
「だからスポーツの授業には出ないんだ」
「ズルになるからね」
リーシャは編入時から、スポーツと武道の授業を受けていない。
ワイズリートやシュラインに言われたからでなく、この脚を見せることに不安があった。
憐れみの目で見られることも嫌だった。
編入して以来、一度も主席の座を明け渡していない今であれば、憐れみの目を向けられることもなく、怖気づくこともない。
もし、最初からこの脚を晒していたならば、アリスは友達になってくれなかったかも知れないが、それを考えても詮無きこと。
リーシャの容姿に劣等感を感じていた女子たちにとっては朗報。
完璧なリーシャにも、その容姿に欠落があるならば、自分にもチャンスが回って来ると思ったからだ。
だが、現実は甘くない。
リーシャは己の姿を隠さない・・・それが一層、男子たちを夢中にさせた。
中間試験が終われば、期末試験の前に文化祭という校内の祭典がある。
規律の厳しい中央神学校で、唯一、生徒の自主性に委ねられる祭典だ。
この時ばかりは宗教色が緩くなり、吟遊詩や物語をモチーフにした劇を各クラスが披露するのも定番となっている。
リーシャの主席で中間試験が終わると、すぐに皆が劇の話題で盛り上がり始める。
当然のように主役に推されるのがリーシャだった。
「私はこの脚だ・・・主役は他の誰かがやってくれ」
「私は敵役か、悪者をやらせて貰えると好都合」
本人が言うのだから、と、男子たちは残念そうにリーシャの主役を諦める。
それに気分を良くしたのが、貴族子女の面々。
侯爵家の令嬢、ブリジット・リュシー・キュヴィエが、主役に名乗りを上げた。
「では、よろしければ私に主役を任せて頂けないかしら?」
周囲に侍る取り巻きの女子たちが喝采で賛成を示す。
リーシャが主役をやらないならば、と、半ば興味を失った男子たちも渋々同意する。
キュヴィエは、編入当初から一貫してリーシャを快く思っていない。
父親にも抗議する程だが、リーシャの後見人が枢機卿だと聞かされれば黙るしかなかった。
やっと一矢報いることが叶ったと思った矢先、キュヴィエの意中の相手であるヨアヒム・ユンカースがリーシャと同じく主役を辞退した。
「僕は舞台だと緊張するから、とても主役は無理だ」
「メルダーなら身長も高いし、度胸もある」
「僕は彼を推薦するよ」
ユンカースに指名されたメルダーは謙遜しながらも、それを受け入れた。
「主役と支援者で劇を決めるといいね」
「決まったなら、その他の役を皆で決めよう」
誰となく、そう言い出せば、特待クラスの劇の出し物は主役たちに委ねられた。
・・・
リーシャが悪役を望むならば、と、キュヴィエ達は、なるべく悪役が惨たらしく最後を遂げる劇を選んだ。
「この劇がいいわ」
と、キュヴィエが自ら選んだのは、悪魔に魂を売り渡した商人が、賢い主人公たちに散々に凹まされた挙句、最後には正体を見破られて主人公に葬られる、と、いう物語。
物語の商人は男なのだが、それを女に変えてまで、リーシャに悪役をやらせるという案に、一部の者は反対したが、対案を出せと言われれば面倒になり、キュヴィエの案を採用することになった。
そんな流れにも関わらずリーシャは、
「面白いね!」
「勿論、大歓迎で悪役を演じるよ」
と、にやりと笑う。
キュヴィエにとって、それがトラウマになるとは、この時はまだ、思いもしなかった。




