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氷結のシャアリィ  作者: 黒猫テラス運営部
外伝・受難の聖女編
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ワイズリートの邸宅

アリスの墓参りを終えてアーシアンに戻れば、学舎は既に夏季休暇直前。

遠方から下宿している者達には様々な選択肢がある。

実家へ帰省するか、或いは教会の斡旋で期間限定の仕事を手にして滞在費を稼ぐか、講師や教授の元で研究の手伝いをするか・・・。

いずれにしても時間は有限。


リーシャはと言えば、


「ショットの屋敷で、休暇を過ごす?」

「・・・別に構わないけれど、いいの?」


まるでご褒美のような提案には、さすがのリーシャも驚く。


「まぁ、なんというかね」

「侍従の者たちにも休暇を出してやりたいんだ」

「きみがそれを穴埋めしてくれるなら、とても助かる」


つまりは家政婦がわりにリーシャを使いたい、と、いうことらしい。


「きみにもメリットはある」

「ワイズリート家の秘伝の書物を閲覧出来るんだ」

「そして極上のやわらかなベッド、近くにはカフェテラスもある」

「仕事を受けてくれるなら、毎日でも行けばいい」


実に魅力的な提案に、リーシャは疑いの目を向ける。


「なんか隠してるんじゃないか?」

「私を実験台に使った研究とか、それも強烈に痛いやつ」


ワイズリートは腹を抱えて笑う。


「ないないない、絶対にない、神に誓うよ」

「そりゃあ、仕事はたくさんある」

「掃除、洗濯、食事の用意、お茶の支度」

「でも、私ときみの分だけでいいんだ」


そう言われれば、上機嫌を隠しながら答える。


「じゃあ、行こうかな」

「悪い話じゃなさそうだし」


ワイズリートは、リーシャのしっぽがリズミカルにゆらゆらと揺れているのを見逃さない。


「提案を気に入ってもらえて良かったよ」

「私達の他には誰もいないから、気楽にするといい」


その一言で噛み付くのが、シュラインだ。


「『二人だけ?』とは・・・リーシャ、危ないぞ」

「これを持っていくんだ」


と、肘から指先程の大きさの鋼鉄製のダガーを渡す。

ダガーの背には、刃物を挟んでへし折るためのギザギザした突起があり、刃渡りの長さを見れば猛獣でも仕留められそうだ。


肝を冷やしたワイズリートが、


「おいおい、狩りに連れていく予定はないんだ」

「そんな物騒なものをリーシャに渡すんじゃない」


シュラインが不服そうな顔で、返せという仕草をしてリーシャから刃物を受け取る。


「外に行かなくても、夜に狼になりそうな奴がいるだろう?」

「リーシャ、部屋の施錠は忘れるなよ?」


・・・


「このお屋敷がショットの自宅?」

「結構広いね?」


一般人ならば、大喜び間違いなしの広さの邸宅を見ても、反応の薄いリーシャ。


「使ってない部屋も五つ程あるからね」

「ベッドだけは私が運んでおいた」

「あとは、空き部屋に置いてある家具を好きに使っていいよ」


と、合鍵をリーシャに渡す。


「一ヶ月半か・・・あっと言う間だろうな」

「じゃあ、食事とかの買い物に行ってくるよ」

「お掃除とかは明日からね」


そういうリーシャに、ワイズリートは銀貨の詰まった大きな革袋を渡した。


「足りなくなりそうになったら、教えてくれ」

「私は魚はあまり好きじゃない」

「あと、トマトは禁止」

「きみが食べる分には文句は言わない」

「夏を過ごすための服も買っておいで」


ずっしりと重い革袋では、さすがに歩き辛い。

リーシャは小さめの革袋をワイズリートから貰い、残りを置くために屋敷に入る。


「なんにもないね」


その言葉通り、エントランスには装飾の類は一つもない。

二階まで吹き抜けの空間があるだけ。

ベッドだけがおいてある部屋を探して、銀貨の袋を置くと、それを毛布で隠しておいた。


南向きの部屋。

思わず窓を開けたくなる衝動を堪えて、リーシャは買い物に出掛けた。


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