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氷結のシャアリィ  作者: 黒猫テラス運営部
外伝・受難の聖女編
495/611

さようなら

アーシアンを出て五日目の午後。

キャラバンを追い抜いた旅客車両はウィトプラナに到着した。


「アリスは田舎だと言っていたが、結構大きな街じゃないか」


リーシャが幼少期過ごしたセロニアスの集落に比すれば、十分に発展している市街区。

様々な商店や市場もあるし、都市運営に必要な機関も揃っている。

土地が安いのか、それらの建物は高さはなく、面積が広い。


綺麗に区画された市街区から少し離れれば、貧民街。

貧民街と言うものの、アーシアンの無秩序なものとは少しばかり様子が違う。

建物は古びてはいるが、修繕された跡がある。

農作業に耐えられなくなった者達が、ここに流れているのだろう。


昼間から路上で酒を煽るような者はいない。

草臥れた身成をしているが、世捨て人ではない。


「この街は、嗜好品には重税を掛けているんだよ」

「食料の価格は安いけれど、酒や煙草はべらぼうに高い」

「庶民が日常的に買えるようなものじゃないんだ」

「だから、貧民街でも、比較的事件が少ない」


リーシャは腑に落ちる。

アリスの常識では、貧民とはただ貧しいだけの人で施す相手だった、の、だろうと。

でも、アーシアンでは、それは常識と違った。


「教会はどちらに?」


と、シュラインに尋ねれば、小麦畑の向こうの丘を指差す。

十分以上歩く距離。

普段、研究室に籠っているシュラインには少しばかり苦痛を伴う距離だ。


「私は花を買って、教会に向かいますが、先生はどうされますか?」


リーシャの予想通りの返事が戻って来る。


「私は宿をとって、そこで昼寝でもするよ」

「どの道、今日はこの街に宿泊するんだ」

「先に宿まで付き合ってくれ」


・・・


シュラインを宿屋に残して、リーシャは市場を歩く。

なかなか花屋を見つけることが出来ない。

部屋に花を飾るような洒落者は少ないのだろう。

やっと見つけた花屋にあるのは、地味で散りにくい手向け花用のものばかり。

それでも少しばかり可愛い色の花を選び、大きめの花束を用意した。


小麦畑の間を抜ける丘への道には、自分ひとり。

そよ風に白い髪を靡かせて、風景に不釣り合いなドレスを着たリーシャが歩く。

教会に着き、修道女に墓地を案内してもらう。


「アリス・・・来たよ」

「賑やかさはないけれど、いい街だね」

「見渡す限りの小麦畑、土の匂い」

「アーシアンより、ずっと、いい所じゃないか」


真新しい墓標に刻まれた名前、そして生まれた日、この世を去った日。

リーシャは、アリスの名前を指でなぞり、最後にそっと掌を押し当てる。


「私は何時も自分勝手で、あまり君に時間をあげなかった」

「それをとても悔やんでいるんだよ」

「もっと、いろんなことを話したり聞いたりするべきだった」

「今日はきみだけのために私はここまで来たんだ」

「・・・きみは馬鹿だ」

「私と友達になりたいって言ったくせに、友達にこんな哀しい思いをさせるなんて」

「ああ、私も馬鹿だよ」

「届きもしない言葉を自己満足のために、いしっころに向かって喋ってるんだ」

「ここにくれば、少しくらい、自分を慰められるなんて、卑怯にも程がある」

「今更、何をしたって、きみは戻ってこない」

「・・・私を友達にしてくれてありがとう」

「私はこの痛みを持ったままで生きてゆくよ」

「さようなら・・・アリス」


一際強く一陣の風が、リーシャの髪を靡かせる。

それをアリスの返事代わりに、リーシャは墓標に背を向ける。

流れる涙は拭わない。

この日差しの下ならば、どうせ、すぐに乾いてしまう。

どれだけ泣いたとしても、どうせ、いつか忘れてしまう。


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