泣いても何も変わらない
衛兵所の遺体安置所。
リーシャがアリスの亡骸を背負って辿り着いたのは、日付が変わる少し前。
「ここから先は我々の仕事だよ」
「大変な目に遭ったね・・・でも、こうしてきみが見つけてくれた」
「それだけはきみの手柄、否、きみの友情の証」
「シュライン女史が迎えにきたら、きみも身体を休めてくれ」
薄汚れた扉を開けて、リーシャはベンチでシュラインの到着を待つ。
血相を変えて慌てて飛び込んできたシュラインが怒鳴る。
「この馬鹿者め!」
「お前まで何かあったらどうするつもりだ!」
「お前は我々の希望、何故、もっと自分を大切にしない!」
怒るシュラインの視線がリーシャの両手に注がれる。
「使ったな・・・くそっ!」
「手間を増やしやがって・・・」
「何処まで愚かなことをすれば気が済むんだ」
「私は術式は使うなと言ったはず」
リーシャは、シュラインの激怒にさえ反応を示さない。
「間に合わなかった」
「もっと私が早く動いていれば、救えたかも知れないのに」
「もっと、もっと、私がアリスのことを気に掛けていたら、アリスは生きていた」
「私しか救えなかったのに・・・私は失敗した」
「友人だったのに・・・何もしてやれなかった」
「あの子はくそみたいな奴のくそみたいな欲望のせいで殺された」
「なんで・・・この世界は・・・あの子はなんで殺されなきゃならなかった」
シュラインの平手打ちがリーシャの頬を弾く。
「黙れ!なんでなんでと煩いんだよ!」
「こんなのは世界中で毎日起きてることさ」
「たまたま自分の近くに受難の剣が落とされただけだ」
「そんな当たり前のことに、いちいち、泣かれちゃ面倒で仕方がない!」
「お前が泣いた所で、何も変わりゃあしないんだ」
「為すべきことを為せ!」
・・・為すべきこと?
「ジェネトリウムに戻る」
「お前の身体の全身点検が必要だ」
「魔力暴走はなかったが筋組織は損傷しているだろう」
「・・・食事もしていない」
シュラインの言葉の真意、それを朧げにリーシャは読み取る。
ああ、私のことを心配してくれているのだ、と。
「先生・・・ごめんなさい」
「私は冷静さを見失い、大切なこの身体を壊してしまう所だった」
「私には友人なんて贅沢だったんだ」
「以後、気を付けるよ」
泣いたって何も変わらない。
でも、好きで泣きたいわけじゃない。
どうしようもなく溢れてしまう哀しみを自分の中だけで溶かす方法を知らないのだから、それが涙になるだけだ。
哀しい。
不運、不遇が自分や親しい者に訪れた時に起きる感情。
胸がじくじくと痛み、呼吸が浅くなって溜息が増える。
考えたくもないことが思考に溢れて、ずっと囚われる。
まるで進む道を見失った時のような不安。
ああ、アリス。
きみは運が悪かったんだね。
私は何時かきみのことも忘れてしまうだろう。
友達甲斐のない奴で済まない。




