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氷結のシャアリィ  作者: 黒猫テラス運営部
外伝・受難の聖女編
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貧民街

雨の中、衛兵たちが繁華街を走り回っている。

恐らくはアリスの捜索、或いは別の重大事件か。


リーシャは考える・・・アリスはそれ程裕福ではなく、その行動範囲に繁華街は含まれない。

ならば、庶民が日常的に使う市場、或いはその外れにある貧民街が怪しい。

自分から貧民街に足を踏み入れるような者は少ない。

が、アリスは貧しい者のために治癒術師になろうとしていたのだから、関わりがないとは言い切れない。


市場の路地裏は、決して清潔とは言えない。

残飯を求めて貧民街の子供たちがごみを漁っている姿が目に留まる。

こんな雨の夜に・・・。

リーシャは子供たちに声を掛け、自らのポケットにある砂糖菓子の欠片を渡す。


「私と同じくらいの年の女の人、髪は茶色で、少し長め」

「昨日の夜、何処かで見なかったかしら?」


泥で汚れた子供の顔は、それが男児なのか女児なのかも判別がつかない。


「もう少し、お菓子をくれたなら思い出すよ」


リーシャがその掌に砂糖菓子を乗せようとすれば、別の子供がそれをひったくって逃げる。

腹が立つよりも先に悲しくなる。


「頼む・・・私の友人なんだ」

「教えてくれ」


リーシャの嘆願は裏切られる。


「えっと、俺は見てない」

「何時もここらへんで漁ってるけれど、ここらへんにはいなかったぜ」


思わず蹴り飛ばしてやりたい衝動に駆られるが、リーシャの融合義足で蹴られれば大変なことになる。

リーシャは、覚悟を決めて貧民街へと足を踏み入れた。

木片や瓦礫を積み重ねただけの屋根、壊れた壁、扉のない入り口。

およそ家とは呼べないような廃屋・・・漂う異臭。


闇雲に何でも混ぜて濁った酒の瓶を片手に、卑猥な声をリーシャに投げ掛ける男たち。

我慢ならない言葉でも手足の欠けた姿を見れば、既に罰は下っているのだと黙殺出来た。


そんな場所をくまなく歩き周り、ついに見覚えのあるものを見つける。

それは今、自分が身につけているものと同じ・・・学舎の制服。

正確にはその成れの果て・・・服としての用途など期待できない程に裂かれ、泥で汚れている襤褸切れは見落とされても不思議ではない有様。


その近くの廃屋から、裸の脚が見えた。

駆け寄れば、数人の男たちがアリスの身体に群がり、歪んだ笑みでやりたい放題の狼藉をしている最中だった。


「きっさまらぁ、私の友達から離れろぉ!」


その叫びが聞こえないように、男達は欲望を吐き出すための行為を続ける。

リーシャの身体が撥ねて、一人の男の側頭部に膝蹴りを見舞う。

そして、次々とその場にいる男達を手当たり次第に蹴り飛ばす。


「な、なんだお前、何をする?」


違法薬物でも接種しているらしく、焦点の合わない目でリーシャを見る男に渾身の正拳突きが刺さる。

男達は皆、よたよたと足取りが怪しい。


「皆殺しにしてやる!」


宣言通りに、リーシャは男たちを圧倒的な暴力で駆逐した。

そして、動かないアリスの頬を軽く掌で(はた)く。


「アリス、助けにきたよ・・・アリス!」


その身体はだらりと重く、呼吸もない。


「アリス!アリス!目を覚ませ!ほら、私だ、リーシャだ!」


そこで気付く・・・片方の眼球がない。

身体中に青黒い打撲の形跡、指の骨を折られ、口元には血が流れた跡がある。

リーシャは、記憶の中から引き摺りだした、中級治癒術式の詠唱句を口にする。


「御使いの力をここに集わせ 癒しの奇跡を与え給え」

「対価には祈り 我が鼓動の幾許かを捧げ願う」

「翠と蒼の精霊に奉るは 豊穣だけに非ず」

「ブライト・ヒーリング!」


魔力は体内を巡り、まだ未完成の疑似神経節が悲鳴を上げる。

アリスの身体に翳されたリーシャの両手の爪が弾け飛んだ。

術式作用は起きない・・・ただ、あふれ出る自らの血で、リーシャもアリスも赤く染まるだけ。


「死んじゃう!アリスが死んじゃう!誰か助けて!頼む!」


リーシャの慟哭に答える声はない・・・。

わかっている・・・術式を試す前に既にアリスが死んでいたことくらい。

でも、認めたくなかった、認めるわけにはいかなかった。


友人として。


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