心許せる相手
リーシャの優秀さは、ワイズリートにも届いていた。
但し、講師からの評判はあまり良くない。
理由は些細な事。
見掛けに反して可愛げがないからだ。
学舎の中では感情というものを見せないリーシャを好ましく思う講師や教授はいない。
生徒からの評判も同様。
誰と関わることもなく、ただ一人で勉学に励むリーシャに話し掛けることすら出来ない。
ジェネトリウムの研究員たちには、そこそこ愛想が良いのだが。
「ショット!」
「私、一番だったよ!」
こんな風にリーシャが年相応に、はしゃぐなんて、学舎の連中は信じないだろう。
兎に角リーシャの思考は効率的というか、割り切りが激しい。
友人とは打算的なことを全て忘却して付き合う存在なのだから、それをリーシャに求めるのは無理なこと。
「ああ、聞いているよ」
「頑張っているみたいだね?」
「友人は出来たかい?」
そう、問われれば、率直に返す。
「いらないものをわざわざ作る必要はないよ?」
「私が学舎に通っているのは、知識を学ぶためだもの」
「そして、その評価で一番になることが使命」
「友人なんて私には必要ないから、作ろうとも思わない」
ワイズリートはそれを正しいと思う反面、残念だとも思う。
「利害関係なしに付き合いたいと思う人間はいないのかな?」
リーシャには、その前提が理解出来ない。
ワイズリートでさえ、『利害』という関係性はある。
自分は家族にさえ『利害』によって排除されたのだから。
「ん-、それに該当する人間は学舎にはいないね」
「私にとって利害関係を考えずに一緒にいたいと思えるのは、姉様だけ」
「それはおかしいこと?」
おかしい、と、言うべきだろうか。
ワイズリートは思案する。
「外見が好みだとか、考え方が共感できるとか、振る舞いが尊敬できるとか」
「そういう風に思うことはないのかな?」
リーシャはきっぱりと言う。
「強いて言うなら、ショットにはそういう感情を持っているよ」
「偉いのに偉ぶらないし、私の言うことをちゃんと聞いてくれるし、対等に扱ってくれる」
「学舎の人間はね、私のことを獣人だって蔑んだ目で見る」
「好きどころか、嫌いだよ」
「感情を出さないだけ、褒められたいくらい」
それならば救いはあると、ワイズリートは理解した。
「成程、じゃあ、私が褒めるよ」
「リーシャはちゃんと使命を果たすために努力している」
「それも手加減なしで」
「もし、リーシャを好ましく思う人間がいたならば、きみも心を開く準備はある」
「そう考えてもいいんだね?」
リーシャは頷く。
「そんな酔狂な人間がいるならば、少しくらいは無駄な時間を使うのも悪くないかもね」
「或いは利害が一致するような相手なら、私にも受け入れる準備はある」
「でも、積極的に自分から友人を作りたいとは思わないよ」
「私は書物があれば、時間は幾らでも欲しい」
「まだ、図書館の本の五分の一くらいしか読めていないんだから」
リーシャは、既に千冊以上の書物を読んだらしい。
ワイズリートは、やれやれという仕草をしながら、
「書物より役に立つ人間を探すのは、とても難しいね」
「無理強いはしないが、それでも少しは友人を作ることも考えるべきだね・・・」
「さて、今日はお説教じゃなくて、きみを労うために来たんだ」
「何をして欲しい?」
いざ、一緒に時間を過ごせるとなれば、やりたかったことも忘れてしまう。
「ショットのお仕事の話とか、それの愚痴とか、聞きたい」
「偉い人は、弱音を零せないんでしょ?」
「私になら、そういうの出しても大丈夫だし、少しは役に立つかも!」
その満面の笑みは、嘘偽りのないリーシャの本心。
ワイズリートは、この少女を追放したセロニアスという集団を愚かだと思った。
「じゃあ、そうしよう」
「お茶とケーキがあれば、最高だね」
「仕事の愚痴は幾らでもあるさ」
「世の中、世知辛いんだ」
暖炉の近くに椅子を並べて、まるで恋人同士のような会話をする。
二人を結ぶ絆は、もっと強いものなのかも知れない。




