主席
冬季期末の試験が間近に迫り、授業の合間の休憩時にも教科書や参考文献、ノートを開く者の数が増えた。
窓際の最後列、リーシャは群れに混ざることもなく、外の景色を眺めている。
ほんの数か月前、何もかもに絶望し、ワイズリートと契約を交わした日から、リーシャの人生は一変した。
毎日、適度に甘味を味わうことも出来るし、日が暮れるまで教会図書館の貴重な書物を読み漁ることも出来る。
友人等必要ない。
友人が出来た所で、つまらぬお茶会等で時間を奪われるだけならば、それは不要、それは無駄。
本当の意味で、リーシャの孤独を埋められるのは、ワイズリートだけなのだ。
そのワイズリートに会えないことだけは、寂しく感じる。
主人と下僕・・・本来ならば、そういう関係なのだろう。
だが、ワイズリートに言わせれば、そんな陳腐な関係ではない、と、言う。
最初に会った時、ワイズリートは好きに呼べ、敬称もいらない、と、言った。
つまり、互いは目的のためにある存在ということなのだ、と、リーシャは解釈している。
そこでリーシャは考えた。
少しばかり生意気になっても良いだろう、と。
試験が終わり、結果が発表される。
リーシャは見なくてもわかっている。
ひとつたりとも、試験の問題を間違えた覚えがないのだから。
主席、リーシャ・セロニアス。
順位表の一番上に書かれている自分の名前。
小さな口から零れたのは、面倒なことが起きなかったという小さな安堵。
学舎での最初の使命を果たしたのだから、帰宅したらシュラインに我儘を聞いてもらおう、と、珍しく図書館にも寄らずジェネトリウムに帰った。
「シュライン先生、期末テスト、一番だったよ」
「ショットに面会の時間を作るように催促してくれ」
研究室の椅子に座るシュラインは、目を丸くして驚く。
「一番?きみが?どうして?勉強好きなのか?」
疑問符だらけの返答に、リーシャは薄い胸を張る。
「私、速読と暗記、暗算には自信があるんだ」
「セロニアスの複雑な禁足結界だって、何度も抜けたことがある」
シュラインは腑に落ちる。
白毛獅子の直系は、オーバーヒューマン。
人間以上の人間を作り出す技術によって生まれた旧世界の遺産。
一度滅びた文明を再興した今の人類が叶う相手ではない、と。
「わかったよ」
「さすがの枢機卿様も年末年始くらいは時間があるだろうさ」
「二、三日は、ここで過ごせるように言い含めておくよ」
リーシャは自分の我儘が受け入れられたことに年相応の笑顔を見せる。
「ショットと会える」
「・・・新しい服を仕立ててもらってもいい?」
「折角だから、ちゃんとした格好で会いたい」
シュラインはリーシャの頭を撫でながら、
「あいつは少女趣味さ」
「きみの制服姿のほうが喜ぶと思うよ・・・鬼畜のド変態枢機卿様だから」
「まぁ、私も他人の性癖を笑える立場じゃないがね」
リーシャは少しばかり考えて、
「そうかもね・・・学舎の制服なら可愛いし、ハイソックスで、この脚も見せずに済む」
「少しばかり、普通の女の子の気分を味わうのも悪くない」
じゃあお願いね、と、上機嫌でリーシャは自室に引き籠った。
シュラインはそれを見届けた後、長い溜息を吐く。
「中身はまだまだ子供だね」
「ああ、畜生」
「子供ってのは、面倒だ」
「特に手の掛からない子供ってのは、イライラする」
そう零すくせに、随分と優しい表情。
自分がリーシャに少なからぬ親愛の情を持っていることに気付く。
今年もあと一週間で、終わる。




