特待クラス
中央大教会に隣接する神学校。
教会の者が学舎と言えば、それはこの学校のことを示す。
通常ならば基礎学校を卒業した後に進学するのだが、貴族や教会の大家の子女に限っては、七才以上で読み書きが出来れば入学を許される。
リーシャの後見人はワイズリートなのだから、その出自を問われることもない。
だが、獣人が神学校に入学するなど前代未聞。
講師も、それを顎で使う教授たちも、リーシャの耳と尾を見れば眉をひそめる。
しかし教会は縦社会。
枢機卿の決定に逆らうには、それなりの理由と覚悟が必要であり、自分の言い分が認められなければ今座っている椅子を失う。
黙殺すれば良いだけのこと、どうせ経歴に箔をつけるために来たのだろうと、講師たちは思っていた。
せめてもの抗議とばかりにリーシャが放り込まれたのは、優秀者を集めた特待クラス。
身の程を知れば大人しくなるだろうという、講師たちの浅知恵。
このクラスには二十人。
年齢は十二才から十四才、名家出身の将来のエリートたち。
「今日からこのクラスに編入となるリーシャ・セロニアスだ」
「皆、正々堂々と切磋琢磨するように」
リーシャは少し安心する。
仲良くしろ、などと言われたら、さすがに笑いを堪える自信がなかったからだ。
「リーシャ・セロニアス」
「見ての通り、獣人」
「私を嫌悪するならば、それでいい」
「だが、無用な争いは好まない」
「お互い、面倒なことで講師の方々に迷惑を掛けないようにしましょう」
己の思いのままを口にしたが、クラスの面々にとっては好戦的な奴だと受け取られた。
しかし、リーシャの容姿はそれを捻じ曲げる程に可憐、清楚なのだから質が悪い。
思春期の少年少女は皆、複雑な感情でリーシャの着席を見守った。
「授業を始める」
「今日は、『治癒術と陽根源転換術式の境界線について』だ」
「参考文献の七頁目を開け」
皆が書類をめくる中、リーシャだけはノートを開く。
「セロニアス、文献は昨日、届けられている筈だが、忘れたのか?」
と、講師に問われれば、クラスの面々から小さな嘲笑が零れる。
「持参はしていますが、既に暗記しておりますので、開くまでもありません」
「構わず授業を続けて下さい」
それを反抗と受け取った講師だが、そういうことなら、と、授業を再開する。
「では、セロニアス」
「八頁目の最初から、音読してくれ給え」
如何に後見人がワイズリートであろうと、生徒に舐められるわけにはいかない。
読めなければ十分に注意し、わからせる必要がある、と、講師は判断した。
だが、リーシャは十五頁の参考文献を本当に暗記している。
「・・・以上のことから、人体の機能を制御する術式を治癒術とし、環境を変質させ浄化などを行うものとは区別して扱う」
「治癒術を扱うには倫理、法学、神学の知識がなければならない」
「人間の健康、そして生命に直接影響を及ぼす以上、特別な陽根源転換術式として治癒術は存在するのである・・・」
すらすらと、詰まることもなくリーシャは自分の記憶の中の参考文献の内容を読み上げる。
クラスの面々は、読み上げている箇所を目で追いながら、間違い探しに必死。
講師はリーシャの音読を止めることも忘れ、ただ、ハスキーな声を聴き続ける。
ついに文献の最後まで、リーシャは音読し、
「終わりました」
「着席の許可を願います」
と、講師に告げる。
講師は唖然としていた口を一度閉じ、リーシャに警告をした。
「よろしい」
「しかし、ここは学舎だ」
「皆と協調することも必要であり、それを乱すのは好ましくない」
「次回からは、私の指示に従ってくれ給え」
と、体裁を繕うことで己の体面を保った。
リーシャは不満を顔にすることもなく、
「失礼致しました」
「以後、慎みます」
と、表面上は素直に応じる。
特待クラスの面々は、白い獣人の少女が只者ではないと、理解した。
講義が終わり休憩時間となっても、近寄らない。
皆、自分が獣人より劣っているなど、認めたくなかった。




