モラトリアム
ワイズリートが過去に選んだ三十五人の少女は皆、ここまで辿り着けなかった。
その理由は様々。
リーシャは膝下全てを融合義足にしたが、殆どの少女に求めたのは手の指一本。
リーシャに比すれば苦痛は雲泥の差。
だが、それでも成人前の少女にとって耐えられるような痛みではなかった。
五人だけは融合指の手術に耐えたが、その内二人は、痛みで脳を焼かれ廃人。
残る三人も、子宮を失うと聞かされれば、聖女への道を諦めた。
それが当然だ。
リーシャという少女が異常なのだ。
勿論、肉体の頑強さで言うならば、リーシャにはセロニアスの血が流れているのだから普通の少女と比べるまでもない。
例え先天性の奇形持ちだとしても、その遺伝子は獣人の王に相応しい。
「さて、リーシャ」
「よく頑張ったね」
「まだ痛みは体中に残っているだろうけれど、一つの山場は越えた」
「次のプロセスを始めるには、術式回路が完全に定着しなければならない」
「それまでの時間、無為に過ごすのは勿体ないだろう?」
「だから、きみは神学校に通うんだ」
「そこにある書物、そして友人や教師から、様々なことを学びなさい」
「二年後、きみに最後の試練がある」
「それまでは、学生としての生活を楽しむといい」
「面倒はシュラインが見てくれるさ」
ワイズリートがそう言えば、リーシャは少し不安になる。
「私を放り出して、何処に行くのです?」
「まだ、こんなに身体が痛むというのに・・・」
「少しくらい傍にいて労うことは出来ないのですか?」
一度ならず、二度までも、そして今現在も、身体を苛む痛みを抱えて、リーシャは不満気に文句を言った。
「私は、これでも中央大教会の枢機卿なんだ」
「表の仕事もしなくちゃならないんだよ」
「私が傍にいた所で役に立つことは、今の所ないんだ」
「一つ課題を出すとしたら、学舎でも最強であって欲しいものだね」
リーシャは最強という言葉を聞けば、嫌とは言わない。
「わかった」
「その代わり私は好き勝手に振舞うよ」
「ここまでちゃんと耐えたんだから、褒美の一つくらいいいでしょ?」
ワイズリートは顔を綻ばせ、
「それで気が済むのならば、どうぞ、姫君」
「但し、その大事な身体を壊すのだけはナシだ」
「わかっているね?」
リーシャは頷く。
シュラインが声を荒げて、ワイズリートに抗議する。
「おいおい、私の言い分は聞かないのか?」
「私だって活躍したんだ」
「それなのに、子供の世話をしろだって?」
ワイズリートは笑う。
「そうさ」
「私に出来るなら、私がやるんだがね」
「きみにしか頼む相手もいないし、きみならば出来ると思ったから頼むんだ」
「どのみち、きみなしではリーシャの健康管理は出来ない」
「だから、頼むよ」
シュラインもわかっている。
これから始まる二年が、リーシャにとって大切な時間だと言うことを。
聖女になれば、その身に自由はない。
最初で最後の有意義な時間。
二年間の猶予期間。




