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氷結のシャアリィ  作者: 黒猫テラス運営部
外伝・受難の聖女編
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術式回路

術式回路・・・それは未だ術式に覚醒していない者や術式素養のない者でも、術式を習得出来る身体へと変化させるもの。

そう聞けば、便利なものに聞こえるだろう。

だが、異物を体内に埋め込む苦痛は耐え難いものだ。

特に男性は、体内に異物を入れるだけの空間が存在しない。

体表に回路を移植することは幾つかの点で好ましくない。


常に破損の危険が伴い、破損すれば脳もダメージを受ける。

ワイズリートや、シュラインにとって術式回路は秘すべき技術でもある。

その点、女性であれば妊娠という機能と引き換えに体内に回路を収容できるのだ。


「我々の魔道は、倫理と同居できない程に逸脱している」

「そも、才能などに期待すれば、最強の術式使いを育てるなど、夢の又夢」

「それを成す為ならば、逸脱者と罵られることも恐れはしない」


シュラインは術式使いとしては、凡庸。

治療に関する陽根源転換術式しか持っていない。

それも、全て中級留まりだ。


ワイズリートが枢機卿となり、その研究を打ち明けられた時、それを手伝うことは渡りに船だった。

例え歴史に名前が残らない外道の所業だとしても、だ。

魔道的興味の前では、何もかもが些末なこと。


「好いている男がいるならば、貞操を捧げた後でも構わないよ?」


そう言われた所で、リーシャには思い当たるような人物はいない。

今までの人生で恋愛等というものはまるで縁がなかったのだから。


「幸い、未練の残るような相手はいません」

「これから先もきっと、そんな相手は現れないでしょう」


感情のない返事に、シュラインは少しばかり安堵する。

少女が夢見るものの一つ、『幸せな結婚』。

それを壊さずに済むことで、僅かばかり罪も薄れる。


「では、融合義足の時と同じ」

「最初だけは麻酔が出来る・・・目覚めれば苦痛が待っているがね」


シュラインのアネスシージャ・スリープは、一瞬にしてリーシャの意識を眠りに沈める。

それは夢のない眠り。

少し長く続く気絶のようなものだ。


「ただの一度も男を知らぬ身体」

「だが、それでこそ聖女足り得るのか」


柔らかな下腹部が鋭いナイフで切り開かれ、妊娠に必要な器官が切除される。

もう二度とは戻らない。

種の存続という生命の最重要目的を奪い、与えるのは戦いのための力。


真っ白な初雪のような身体を鮮やかな赤い血が汚す。

半ば無理矢理に作られた空間に無機質な金属の塊が埋め込まれる。

先端部分には数十本の疑似神経繊維。


二年程の時間を掛けて、この疑似神経は体中に伸び続け、神経節と繋がる。

そして、やがて心臓と繋がり、完全な魔力循環構造が完成する。

融合義足で魔力を吸い上げ、その魔力が術式回路を巡る。

術式回路から生まれるエネルギーは血流に乗ってリーシャの身体の隅々にまで行き渡る。


「ぐ、痛い・・・じくじくと身体を搔きまわされるような痛み・・・」

「酷い眩暈・・・頭痛・・・寒気がする」

「体温が奪われている感覚みたい」


眠りから覚めたリーシャは、酷く顔色が悪い。

痛みのある下腹部を見れば、縦に一筋走る縫い跡。

そして下着だけでなく、シーツまで真っ赤に染める血液。


「一時間くらいは出血が止まらないだろう」

「それに伴って貧血も起きるし、体温も下がる」

「例によって、薬の類も、術式も使えない」

「どれだけ汚しても構わないから、腰回りに厚手の布を巻け」

「血が止まれば、多少は楽になるはずさ」


身体の痛みは思った程ではない・・・が、不快感が酷い。

それ以上に、心の痛みが・・・。


(泣くな、悔やむな、考えるな)


そう、自分に言い聞かせた所で、失ったものの大きさが心を軋ませる。

それでも、泣いてばかりはいられない。

まだ試練は始まったばかりなのだ。


リーシャはなけなしの気力で己を奮い立たせた。


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