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氷結のシャアリィ  作者: 黒猫テラス運営部
外伝・受難の聖女編
481/611

得れば、失う

痛みは一週間程続いたが、リーシャはそれに打ち勝った。

たったの一週間だが、ずっと手術台に拘束されていた下半身。


「立てない」

「脚が震える・・・力が入らない」


手摺に掴まり数分を掛けてやっと立ち上がることが出来た。

予想以上に筋力が足りていない。

シュラインは、血肉となりやすい食物を病室に運び込む。


「食え、とにかく食え」

「そして、立って歩く練習をしろ」

「寝すぎて鈍った身体を叩き起こすんだよ」

「義足が馴染めば、大地から魔力の供給が始まる」

「それにはまず、立てなきゃ話にならない」


リーシャは、吐く寸前まで胃に食物を入れ、ひたすらに手摺に向かう。

その回復力は流石、たった二日で歩けるまでになった。


「まだ、思い切りは走るなよ」

「今はまだ柔軟体操や、バランス運動で義足を馴染ませることが優先だ」

「小走りや、片足立ちもいい」


細すぎた体形は少しばかりマシになり、十分な食事の成果か、肌艶も良くなった。

その様子を見ていたワイズリートが、


「おや、見違えたね」

「顔の作りは良いとは思っていたが、なかなかに美人じゃないか」

「将来が楽しみだね」


等と茶化せば、リーシャは恥ずかしがる代わりに胸を張る。

そしてハスキーになってしまった声で、


「美しさでも最強になれれば、怖いモノなしだね」

「そろそろ走ってもいいかな?」


シュラインも、ワイズリートも、笑顔でそれを許可する。


「我慢も限界だね」

「でも、最初から遠くまで行くのは勘弁してくれ」


冬の冷たい風の中。

吐く息も白い。

ジェネトリウムの中庭、数百メートルの全力疾走。

リーシャが待ち望んだ瞬間。

視界が狭くなる程の速度に心が躍る。


「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ」

「凄い、凄いよ・・・本当に走れた・・・私が自分の脚で走れた!」


飛び跳ねて喜ぶリーシャ。

そして、それに水を差すように、新たに待ち受ける受難。


「脚はすっかり良くなったみたいだね」

「まずはおめでとう」


ワイズリートの穏やかな笑み、そしてシュラインの険しい表情。


「じゃあ、次のプロセスを開始しよう」


喜びから戸惑いにリーシャの表情が変わる。


「次?」

「また、痛いやつ?」


シュラインの少し(いびつ)な笑みが、リーシャの目には殊更醜悪に映る。


「痛いか?」

「と、聞かれれば嘘は吐けないし、誤魔化したくもない」

「ああ、痛いね」

「でも、安心するといい」

「融合義足の手術程は痛くないさ」


ワイズリートから、笑えない冗談のような提案がされた。


「きみの子宮に術式回路を埋め込むんだよ」

「他の場所では機密が漏洩するからね」

「きみには子供を産むことを諦めてもらう」


・・・リーシャは沈黙のまま立ち尽くす。

確かに自分は不出来者、子供を産めば、その子にも奇形が遺伝するだろう。

だからと言って、子供が欲しくないわけではない。

シュラインの技術があれば、いずれ、もっと穏便な方法で奇形に対処できるかも知れない。


子宮に術式回路を埋め込む・・・子供を諦めろ・・・。

しかし、リーシャは約束した。

この命はワイズリートと共にある、と。

一粒の砂糖菓子で自分を売り渡したのだ、と。


長い沈黙の末、リーシャは笑顔で頷く。


「いいよ・・・どの道、私からは不出来者しか生まれない」

「子供にまで、こんな業を背負わせるくらいなら、私は子供を産めなくてもいい」

「私はショットのものだ」

「好きに使えばいい」

「だから・・・必ず、私を最強にしてほしい」


ワイズリートの提案を受諾しても、本能がそれを拒否するように、リーシャの深緑の瞳から涙が零れた。

ひとつ得る度に、ひとつ失う。

全部得た時には、自分というものは残っているのだろうか。

頭に過った恐怖に抗うように、ただ、素晴らしい景色を見せてくれた鋼の脚を見つめる。


ふたつ目の受難が始まった。


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