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氷結のシャアリィ  作者: 黒猫テラス運営部
外伝・受難の聖女編
480/594

最強になるんだろう?

触覚、それは即ち痛覚。

それを直接、金属の糸・・・つまりは針で刺されるのだから、痛みは想像を絶する。

しかも、今までないはずの指、脳が使い慣れていない部分でそれを感じるのだから、小さな刺激さえもが激痛。


「うわばばばば、ひぃっ、ひぃっ、があああああ」


叫びというよりも獣の咆哮に近い、意味などありはしない声がリーシャの口から溢れる。

シュラインは、その声を背中で聞きながら、尚も冷静に手術を続ける。


「痛いかい?」

「聞くまでもなく、そりゃあ痛いだろうさ」

「私の声も聞こえないくらいにね」

「でも、痛いってことは『いいこと』だ」

「それはきみの脳と私の作った部品がくっついている証拠だからね」

「きみには悪いが、痛ければ、痛い程、いい」


親指と小指の部品が取り付けられれば、既にそれがひくひくと動く。

現状は、切断された指が神経だけでぶら下がっているのと同じ。

余剰な疑似神経線維を止め螺子で巻き上げ、弛みを取り除く。

当然、神経も引き摺られ、さらに痛みは増す。


「ひゃひゃひゃわわわわ」


口から泡を吹きながら、白目を剥いたリーシャの意識が途切れる。

あまりに痛みが強過ぎて、脳が神経伝達を遮断したのだ。

その隙を見計らって、シュラインはリーシャの剝き出しになった皮膚の上に融合義足の外殻を被せる。


義足外殻はまるで喰らい付くようにリーシャの皮膚を浸食し始める。

その痛みで、リーシャの意識が又、浮上する。


「ごあああああああああああああああ」


左右に分割された義足外殻を閉じ、治療油で浸した包帯を巻く。

やっと右脚の処置が終わり、次は左脚だ。


失神と覚醒、沈黙と絶叫。

繰り返される痛みの連鎖でリーシャの呼吸が、止まる。


心停止だ。


シュラインは慌てることもなく、拳を胸に叩き込む。

直後、戻る鼓動と呼吸。


五時間にも及ぶ移植手術が終わっても、リーシャは手術台から解放されない。

最低でも一日、融合義足とリーシャの脚が同化するまでは、このままだ。

悲鳴を上げ過ぎて咳き込み、リーシャの声帯は傷だらけ。

声は掠れ、弱くなり、時折、血混じりの涎を口の縁から垂れ流す。


いよいよ体力が限界に近付き、リーシャは激痛の中で睡眠に落ちた。


「随分と線の細い子だと思っていたが、私の見当違いだったね」

「凄まじい生命力、適応力」

「目を覚ます頃には、ちゃんと喋れるだろうさ」


シュラインの予想通り、夜更けに目を覚ましたリーシャが、痛みを訴えた。


「痛い、痛い、痛い、痛すぎて、目がチカチカする」

「解いて、こんな脚いらない、麻酔して、もう、嫌だ!」


涙を流しながら訴えるリーシャに、シュラインは問う。


「最強になるんだろ?」

「これは鍛錬という積み重ねの代わりの痛みだ」

「悔やんでるなら、もう、遅い」

「脚を無くせば、物乞いに落ちて生涯を終えることになる」

「それでいいなら、沈痛でも、何でもしてやる」

「ワイズリートとの誓い、あれは嘘か?」


ワイズリートの名を聞けば、泣き言は歯軋りに代わる。


(そうだ・・・ショットと約束したんだ)

(私は聖女に、最強に、なるんだ)


「畜生!ふざけんな、やってやる!」

「私は最強になるんだ!」

「泣き言はやめだ!」


絶叫は意味のある叫びに変わる。

シュラインは、にやりと笑い、


「これは始まりに過ぎない」

「だが、試練を乗り越えたなら、きみは必ず最強に至れる」

「だから、負けるな」

「痛みなんてのは、脳が感じるまやかしだ」

「脳を思考で支配しろ」


リーシャは頷き、思考を幻想で満たす。


「この脚で駆けることが出来るようになったなら、まず、思い切り走りたい」

「風を追い越して、息が切れるまで、真っ直ぐに走る」

「景色を置き去りにすれば、次々と新しい景色に出会う」

「それが私の最初の望み」

「ああ、きっと楽しいに違いない」


脳を埋め尽くす痛みを意志の力でねじ伏せる。

シュラインは、リーシャに聖女の片鱗を感じた。


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