最強になるんだろう?
触覚、それは即ち痛覚。
それを直接、金属の糸・・・つまりは針で刺されるのだから、痛みは想像を絶する。
しかも、今までないはずの指、脳が使い慣れていない部分でそれを感じるのだから、小さな刺激さえもが激痛。
「うわばばばば、ひぃっ、ひぃっ、があああああ」
叫びというよりも獣の咆哮に近い、意味などありはしない声がリーシャの口から溢れる。
シュラインは、その声を背中で聞きながら、尚も冷静に手術を続ける。
「痛いかい?」
「聞くまでもなく、そりゃあ痛いだろうさ」
「私の声も聞こえないくらいにね」
「でも、痛いってことは『いいこと』だ」
「それはきみの脳と私の作った部品がくっついている証拠だからね」
「きみには悪いが、痛ければ、痛い程、いい」
親指と小指の部品が取り付けられれば、既にそれがひくひくと動く。
現状は、切断された指が神経だけでぶら下がっているのと同じ。
余剰な疑似神経線維を止め螺子で巻き上げ、弛みを取り除く。
当然、神経も引き摺られ、さらに痛みは増す。
「ひゃひゃひゃわわわわ」
口から泡を吹きながら、白目を剥いたリーシャの意識が途切れる。
あまりに痛みが強過ぎて、脳が神経伝達を遮断したのだ。
その隙を見計らって、シュラインはリーシャの剝き出しになった皮膚の上に融合義足の外殻を被せる。
義足外殻はまるで喰らい付くようにリーシャの皮膚を浸食し始める。
その痛みで、リーシャの意識が又、浮上する。
「ごあああああああああああああああ」
左右に分割された義足外殻を閉じ、治療油で浸した包帯を巻く。
やっと右脚の処置が終わり、次は左脚だ。
失神と覚醒、沈黙と絶叫。
繰り返される痛みの連鎖でリーシャの呼吸が、止まる。
心停止だ。
シュラインは慌てることもなく、拳を胸に叩き込む。
直後、戻る鼓動と呼吸。
五時間にも及ぶ移植手術が終わっても、リーシャは手術台から解放されない。
最低でも一日、融合義足とリーシャの脚が同化するまでは、このままだ。
悲鳴を上げ過ぎて咳き込み、リーシャの声帯は傷だらけ。
声は掠れ、弱くなり、時折、血混じりの涎を口の縁から垂れ流す。
いよいよ体力が限界に近付き、リーシャは激痛の中で睡眠に落ちた。
「随分と線の細い子だと思っていたが、私の見当違いだったね」
「凄まじい生命力、適応力」
「目を覚ます頃には、ちゃんと喋れるだろうさ」
シュラインの予想通り、夜更けに目を覚ましたリーシャが、痛みを訴えた。
「痛い、痛い、痛い、痛すぎて、目がチカチカする」
「解いて、こんな脚いらない、麻酔して、もう、嫌だ!」
涙を流しながら訴えるリーシャに、シュラインは問う。
「最強になるんだろ?」
「これは鍛錬という積み重ねの代わりの痛みだ」
「悔やんでるなら、もう、遅い」
「脚を無くせば、物乞いに落ちて生涯を終えることになる」
「それでいいなら、沈痛でも、何でもしてやる」
「ワイズリートとの誓い、あれは嘘か?」
ワイズリートの名を聞けば、泣き言は歯軋りに代わる。
(そうだ・・・ショットと約束したんだ)
(私は聖女に、最強に、なるんだ)
「畜生!ふざけんな、やってやる!」
「私は最強になるんだ!」
「泣き言はやめだ!」
絶叫は意味のある叫びに変わる。
シュラインは、にやりと笑い、
「これは始まりに過ぎない」
「だが、試練を乗り越えたなら、きみは必ず最強に至れる」
「だから、負けるな」
「痛みなんてのは、脳が感じるまやかしだ」
「脳を思考で支配しろ」
リーシャは頷き、思考を幻想で満たす。
「この脚で駆けることが出来るようになったなら、まず、思い切り走りたい」
「風を追い越して、息が切れるまで、真っ直ぐに走る」
「景色を置き去りにすれば、次々と新しい景色に出会う」
「それが私の最初の望み」
「ああ、きっと楽しいに違いない」
脳を埋め尽くす痛みを意志の力でねじ伏せる。
シュラインは、リーシャに聖女の片鱗を感じた。




