手術室
リーシャが走れる脚を得るために必要な条件は、親指と小指の増設と脚全体のバランス修正、そして義足と神経の融合。
それに必要な作業は、聞けば眩暈を感じるような恐ろしい内容。
新しい指を稼働させるには疑似神経という金属繊維を埋め込み、それをリーシャの本来の神経と接続する必要がある。
そして、膝から下の皮膚全てを剥がし、融合金属で包む。
見た目、リーシャの骨欠損は指が欠けているだけに見えるが、実際には膝下全体の骨密度が低い。
それを補うために歪な歩き方を繰り返した為に、三本指に慣れてしまった脚全体のバランスを修正しなければならないからだ。
直立するという姿勢。
至極普通に出来ることだと思うだろうが、年老いて背中の曲がった者を見れば、それが如何に普通でないかがわかる。
筋力や骨密度が低下すれば、重力に抗って直立することは困難となるのだ。
リーシャの融合義足は、不足している骨の強度を代替えし、魔力によって筋力を補う。
さらに大地から精霊を取り込み、それを魔力に変換するという魔力炉でもある。
それは、聖女に必要不可欠な膨大な魔力の源泉。
・・・
移植を行う準備・・・つまりは、疑似神経の埋め込みと皮膚を剥がす作業。
その段階では、まだ麻酔が使える。
それだけはリーシャにとって救いだ。
麻酔なしに足の皮膚を剥がされるなど、拷問以外の何物でもない。
だが・・・
一度、麻酔が切れたならば、そこから先、再投与は出来ない。
そして、どんなに泣き喚こうともシュラインは手術をやめない。
途中で手術を放棄すれば、リーシャの脚は化膿し、腐り、切除するしかなくなるからだ。
手術室は陽根源転換術式で、ほぼ無菌の状態。
そして、防音結界。
手術台というよりも、拷問のための拘束具じみたベッド。
そこにリーシャが固定されたならば、動かせるのは手の指と口、眼球くらい。
「これより、融合義足移植手術を始める」
「と、言っても、きみの仕事はただ一つ、耐えることだけだ」
「泣こうが、喚こうが、罵声を浴びせようが、粗相をしようが、構わないよ」
「それにきみがここで何をしても、私は一切他言しない」
「我慢したって、痛いものは痛いんだ」
「遠慮なく泣き叫ぶといい」
シュラインは、何度も見てきたのだろう。
リーシャは、その言葉でこれから自分の身に起きる受難に立ち向かう決意を固める。
「では、最初だけは穏やかな眠りをあげよう」
「寄る辺なき者よ、その息吹を鎮め、静寂なる闇へ」
「アネスシージャ・スリープ」
シュラインの麻酔誘眠術式によって、リーシャが眠りに落ちる。
消毒された切開用の小さなナイフが、リーシャの細い膝下から足の甲に向けて線を引けば、薄っすらと血が滲む。
四角く囲うように線が引かれ、その内側の皮膚が綺麗に剥がされゆく。
リーシャは小さな寝息を立てたまま。
麻酔誘眠は十全に働いているようだ。
「こんなに小さな身体、細い脚・・・」
「私は本物の外道だな」
「毎回、毎回、思うよ・・・」
「でも、この子には私やワイズリートの力が必要だ」
助手の男がシュラインの言葉に答える。
「ええ、先生は間違いなく地獄行きの外道ですとも」
「ですが、先生にしか救えない者がいます」
「私も外道の手先となって、同じ道を往きますのでご安心下さい」
くっ、っと軽い失笑を漏らして、シュラインは手術を続ける。
その洗練された指先は、神にも成せない奇跡を生み出す。
神の教えに反していようとも、リーシャにとっては救世主。
「疑似神経を接続する」
「衝撃で患者が起きる恐れがある」
「注意せよ」
小指があるべき位置が切り開かれ、そこに髪の毛程の金属糸が通される。
ことん、と、小さな音がしたのは、リーシャの身体が撥ねたからだ。
強力に拘束された小さな身体で暴れても、手術台はびくともしない。
同じように親指用の疑似神経が通される。
直後、リーシャの口から洩れる、長い呻き。
その呻きが途切れた直後、絶叫が手術室に響き渡る。
最初の受難の始まりだ。




