不出来者
生まれ落ちた時、皆が私の誕生を喜んだ、と、いう。
物心着いた頃、それを教えられても、それは私にとって、ただの慰めの言葉になってしまった。
先天性の骨欠損。
普通に歩くのにも、少しばかりコツがいる脚を持って生まれた。
姿勢を保つために重要な、足の親指と小指が私には無い。
つまりは奇形なのだ。
奇形を持って生まれた子は、その子供にも遺伝するらしい。
私を娶る者は、ここにはいないのだ。
戦うための一族の血を支えるだけの価値しかない、この集落の女児。
四才になり武芸の稽古が始まる頃、
『不出来者』
と、呼ばれ、蔑み、憐れみの目で私は見られるようになった。
他人の視線が怖い。
成人しても、子を成す資格がないのだから、まさに不出来だ。
私に優しいのは、兄弟姉妹だけ。
父は宗家の棟梁であり、武芸にも、血の継承にも役に立たない私を遠ざけた。
母も又、私の後に生まれた末弟ばかりを気に掛けるようになった。
その日。
私の食事の膳にだけ、赤い大きな魚が載っていた。
「リーシャ、少しばかり早いが旅立ちの時が来た」
「お前の好きな本が沢山あるし、何よりここにいるよりもずっと大切にされる」
「まだ十才のお前を手放すのは心苦しいが、わかってくれ」
父は何時もより、多めの酒を飲んでいるようだ。
母もまた、私に、
「血を残すことだけが全てじゃないわ」
「外の世界には、楽しいことも沢山あるのだから、ね?」
つまり、私はセロニアスの集落から出されるということだ。
そう考えた時、涙が溢れてきた。
今まで言ってはならないと、自分の中に閉じ込めてきた言葉も一緒に。
「私はいらない子、だからですか?」
その言葉を言えば酷く叱られることになるだろうと、予想していた。
けれど、叱られなかった。
「私がちゃんと産んであげられなかったせいで・・・ごめんね」
謝られれば、尚、一層、私は『不出来者』という言葉を噛み締めなければならなかった。
「飯が不味くなるようなことを言うもんじゃない」
と、父は少しばかり機嫌を悪くした。
私はただ黙々と出された食事を食べ、それきり話すのをやめた。
夜が更ける頃、同室の姉が私に小さな箱をくれた。
「リーシャ、私達は姉妹だ」
「私がどうなろうと、お前がどうなろうと、それは変わらない」
「何もしてやれないが、それだけは誓おう」
「これは私からの餞別だ」
箱を開けば、そこに髪飾りが入っていた。
子供が買うには、少しばかり無理をしなくてはならない値打ちもの。
私と同じ顔、同じ耳、同じ色の髪。
姉が悲しそうにすれば、まるで私も鏡写しのように悲しくなった。
さようならアイシャ姉様。
ただ一つの縁を残し、私は次の日、セロニアスの集落を出た。
私を迎えにきた馬車は、美しい金色の十字が施された黒い車体。
どうやら、教会が私の行く先らしい。
私は思った。
どうせ神様だって、私なんていらないと言うだろう、と。




