販売開始
シャアリィとアイシャは、採集してきた魔石を持って職人ギルドを訪れた。
手持ち式温風器と、空調機。
それぞれ五台づつが、魔石の到着を待っていた。
「あとは、魔石を固定して・・・スライダーでインジェクターの移動量を調節すれば・・・」
「ほいよっと」
放出ノズルから、暖かな風が出てきた。
生産一号機の完成だ。
鮮やかな赤色に塗装された手持ち式温風器の両サイドには、
『エンダーベルト・レリットランス製』
『輸入製造者 マーメイド商会』
という、烙印が押されている。
「こっちは、少しばかり複雑だ」
「まず、強弱のスライダーで風量調整」
「過熱や氷結防止のために、風を出さないままでの使用は出来ない仕組みだ」
「風が出始めたら、冷房か、暖房を選択」
「より性能を発揮したい場合には、壁面や窓に設置するように仕様書は書かれているから、それは注文するひととの相談だね」
「排熱機能を使わなくても、十分に使えるはずだ」
「その場合には、台車に乗せて移動式にも出来る」
こうして、それぞれが五台づつ組み上がった。
「一日、二台づつ程度の生産と見ていいのかな?」
と、シャアリィが問えば、
「いや、慣れてくれば、その倍くらいまでは作れそうだよ」
「入れ物を作れる職人は、結構な数がいるからね」
と、頼もしい言葉が返ってきた。
そして、次に向かう先は、販売店となるシャアリィとアイシャの自宅。
改装に合わせて、店舗とは別の入り口を増設したようだ。
新しい鍵をアイシャが受け取る。
「やぁ、こっちは順調だよ」
「商業ギルドと領主府が協力してくれてね」
「二人がいない間も店を任せられる人材も用意してもらえた」
シャアリィとアイシャが店舗を覗けば、そこには既に展示用の生活魔具が綺麗に配置されていた。
「きゃあ、めっちゃおしゃれ!」
「フランコ、センスいいねぇ」
と、シャアリィが言えば、
「いや、これは今回、店長をやってもらう女性が考えたんだよ」
「こちらが、その女性」
テレサ・キンバリーと名乗る女性は、少し大人しい印象の黒髪。
背はアイシャと同じくらい、清楚な白のブラウスがとてもよく似合う。
「こんなすごいお店を任せて頂けるなんて、光栄です」
「元々は高級服を富裕層の方に売る仕事をしていましたので、ご安心下さい」
「お店のお休みですが、安息日にお買い物に来る方も多いと思いますので、当面、月曜日、火曜日休みとさせて頂きたいと思います」
フランコがさらに補足説明。
「商品の補充や保管に関しては、領主府が力を貸してくれることになった」
「大した手間でも、費用でもないけれど、協力はありがたいね」
「販売拠点に関しては、これでほぼ問題はなくなったよ」
「まぁ、いろいろな問題が出れば、商業ギルド経由で情報交換するようになっている」
アイシャが、
「じゃあ、早速、富裕層に向けて宣伝開始だね」
「売り出し価格は、手持ち式温風器が金貨五枚、空調機が金貨二十五枚だ」
「さすがに一般向けの価格ではないね」
「勿論、普及に従って価格は下げるけれど、簡単に下げたら高値で買ったひとに叱られてしまうので、それは頃合いを見計らってだ」
シャアリィが言う。
「この店に足を運んだら、多分、虜になるよ」
「まずはこの店で空調機を使っておけばいいし」
「それとファイヤー亭にも持ち込もう」
「体験すれば、皆、欲しがると思うからね」
こうして、商品の販売が始まった。




