アンダーロック
「こんな辺鄙な所に街があるなんてね」
シャアリィがそう零す程、アンダーロックは過疎地。
馬車でたった二日の距離なのに、レリットランスとは大違い。
市場というには小さすぎる食料品店、鍛冶屋、雑貨店、こじんまりとしたカフェテラス。
それでいて、宿屋と酒場だけは四つづつもあるアンバランス。
総合ギルドという何でも屋が、街で一番大きな建物。
その隣には衛兵所。
この迷宮の灯は三十年後には恐らく消えているだろう。
「地域冒険者章の発行をお願いしたいのですが」
と、アイシャが問えば、
「あんたら、どっから来たんだ?」
「ここはもう、新規発行はしていないんだよ」
「レリットランスの冒険者ギルドで発行してもらってくれ」
むさ苦しい髭面の担当者に言われ、アイシャはレリットランスの冒険者章を見せる。
「これでいいのかな?」
と、冒険者章を提示すれば、
「ああ、それでいい」
「随分と上等な武具を持っているが、この街じゃちょっとばかり目立つ」
「気をつけな」
と、目を合わすこともなく、不愛想に言い放った。
何時もならば、ドラゴン・スレイヤーだのネームド・キラーだの言われて応接室に通されるのだが、その遣り取りもない。
手間が省ける反面、少しばかり拍子抜けだと、アイシャは思った。
出掛ける前に宿を取っておかなければ、最悪、寝床にあぶれる。
二人は古びた宿屋の中でも、一番新しそうな宿を選んだ。
「銀貨五枚、飯は別、湯の追加は銀貨一枚」
ここでも不愛想。
どうせ何処でも同じだろうと、二人分の銀貨を渡す。
「貴重品は持ち歩け、鍵は必ず締めろ、男は連れ込むな」
言われなくともそうするという類の注意を受け、部屋の鍵を受け取れば準備完了。
出発前の息抜きに、カフェテラスの席に座る。
薄っぺらいメニュー板にはパンを使った軽食と、珈琲、紅茶、酒の類。
「珈琲」
「紅茶」
選択肢などないのだから、仕方ない。
代金と注文の品は、その場で引き換え。
二人の所持品にチョコレートやキャラメルがあることだけが、救いだ。
「二極の製品が、火と風」
「四極の製品が、火と氷結と風二つ」
「魔石の数は火が六十、氷結が三十、風が九十だね」
「さくさくっと採取して帰ろう」
何時もなら迷宮に入る前は上機嫌のシャアリィですら、その顔には苦笑い。
・・・
誰の注目を引くこともなく、何かに注目することもない。
淡々とした狩り、腹を膨らませるだけの食事、寝心地の悪いベッド。
それでも魔石の数だけは半日も掛けずちゃんと揃った。
翌日、正午。
迎えの馬車が約束の時間通りに到着し、二人はアンダーロックの街を後にする。
そう言えば、ザック・パーティが冒険者になったのは、この迷宮だったらしい。
その頃は、まだ活気があったのだろうか。
帰りの馬車の中で、シャアリィとアイシャは消えゆく迷宮の街を振り返った。
うっかり見逃してしまいそうな、街道の立て札の文字は掠れて読めない。
もしかしたら、次に来る時にはなくなっているかも知れない。
次の魔石採集はアーシアンにしよう、と、二人は苦笑いした。




