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氷結のシャアリィ  作者: 黒猫テラス運営部
大商人街道編
472/594

タイムリミット

時間との戦いが始まった。


港に到着した新型キャラバンの貨物車両にエンダーベルトから運ばれてきた積み荷を乗せる。

全てを積み終えても、まだ貨物車両には空きがある。

これならば、次回の航海で運ばれてくる商品も、全て一度に載せることが出来るだろう。


最も大きくて嵩張るのは、やはり完成品の品々だ。

まだ、生産の予定もない品だけに、今回は展示して、予約販売にする予定だ。


さすがは複合金属を使った新型車体。

まるで貴族の引っ越しのような荷物の山を乗せても、その重みをスプリングは柔軟に受け止める。


レリットランスへの輸送は、シャアリィもアイシャも同行するために、護衛はグリーンノウズの治安対策室に戻った。


「さあ、いよいよホームに品を届ける時が来た」


アイシャの号令で、キャラバンが走りだす。


・・・


生活魔具を乗せたキャラバンは通常の運行ではない。

中継点など関係なしに、潤沢な物資を抱え込んで、日没になれば街道から少し離れた場所で野営。

旅の暮らしになれている、シャアリィとアイシャにとって、それは大したことではない。

水辺があれば、馬を休ませ、それが済めば、また走り始める。


盗賊の姿はなく、夜襲もない。

フランコが遭遇した盗賊団のような集まりを作るのは、既に難しいのかも知れない。

難所の渓谷地帯を抜け、カレンザで必要物資を積み込み、すぐに出発。


珍しくフランコも寝酒以外に酒を口にせず、ただひたすらにレリットランスを目指す。

結果、旅客専用車程ではないが、通常のキャラバンなら十一日の旅程を九日で走破。

衛兵達の出迎えに振り撒く愛想もそこそこに、『黒猫のテラス』をも素通りして、職人ギルドの前に新型キャラバンが横付けされる。


「部品が届いたよ」

「これは仕様書と設計図」

「仕組みを理解したならば、すぐに制作に掛かってね!」

「それと、これは前金!」


シャアリィが、金貨十枚をテーブルに積む。


「私達が近隣の迷宮で魔石を取って来るから、出来る所まで進めて」


アイシャが騎手に、


「馬の世話を頼むね」

「今回の仕事の報酬は受け取ってる?」

「まだなら、商業ギルドで支払いを受けて」


三人は、足早に職人ギルドを出て、小走りに商業ギルドに向かう。


「キャラバンの経費請求が来たら、私の口座から支払って」

「それと大至急、店舗の内装を依頼したい」

「私達の新居一階の硝子張りの広間に魔石の照明を設置してくれ」

「内壁は全て白一色で塗装、鍵は後で届けるよ」


アイシャが次々と指示を出し、やっと一息つける状態になった。


「ナッチェから鍵を受け取って、商業ギルドに渡してくるから、『黒猫のテラス』で待ってて!」


アイシャだけはまた走り出す。


「すごいな・・・まるで予行練習していたみたいだ」


と、フランコが言えば、


「してたよ?『ついたら何をするか』リスト作ってね」

「アイシャは真面目で優秀なんだよ」


と、シャアリィが答える。

衛兵通りを二人が歩いていると、アイシャが商業ギルドに走っていくのが見えた。


「私達は、近場のアンダーロック迷宮まで行ってくるよ」

「レリットランスじゃ風の魔石が手に入りにくいからね」

「往復と狩りで五日もらう」


と、シャアリィが言えば、フランコが、


「では、私は展示店舗の販売員やら、運営の準備をするよ」

「次の出港まであと十八日」

「レリットランスからグリーンノウズへの移動に九日使うから、我々の猶予時間は残り九日」

「多少のズレは許容範囲だとしても、なるべくなら、遅れたくはないね」


喋りながら、『黒猫のテラス』に到着。


「アイシャも後から来るから、何時もの席で!」


これから、しばらく続く、慌ただしい日々に向けて、束の間の休息。

アイシャも到着し、お預けだった祝杯を傾ける。


「これ、忙し過ぎるよね?」

「次回三カ月便にしない?」

「一月くらい休まないと、うんざりしちゃうよ」


と、シャアリィが早くも弱音を吐けば、


「そうだね、三カ月便、年四回なら余裕も出来るね」

「今回は早めに資金回収したくて、ちょっと焦ったから、ごめんね」


と、アイシャも応じる。


「私は三回目からはさすがに付き合えないから、そのほうがいい」

「これだけ長く教会を空けると、ドロテアにどやされるくらいじゃ済まなくなるからね」

「それに少しばかり、子供の面倒を見る仕事が増えたんだよ」

「そっちもちゃんとしてやらなきゃならない」


フランコも、内心は少々焦っているようだ。

駆け抜けるような日々の中。

三つ並んだカンパリソーダのグラスが春の日差しに輝いている。


努力の結実まで、あと少し。


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