タイムリミット
時間との戦いが始まった。
港に到着した新型キャラバンの貨物車両にエンダーベルトから運ばれてきた積み荷を乗せる。
全てを積み終えても、まだ貨物車両には空きがある。
これならば、次回の航海で運ばれてくる商品も、全て一度に載せることが出来るだろう。
最も大きくて嵩張るのは、やはり完成品の品々だ。
まだ、生産の予定もない品だけに、今回は展示して、予約販売にする予定だ。
さすがは複合金属を使った新型車体。
まるで貴族の引っ越しのような荷物の山を乗せても、その重みをスプリングは柔軟に受け止める。
レリットランスへの輸送は、シャアリィもアイシャも同行するために、護衛はグリーンノウズの治安対策室に戻った。
「さあ、いよいよホームに品を届ける時が来た」
アイシャの号令で、キャラバンが走りだす。
・・・
生活魔具を乗せたキャラバンは通常の運行ではない。
中継点など関係なしに、潤沢な物資を抱え込んで、日没になれば街道から少し離れた場所で野営。
旅の暮らしになれている、シャアリィとアイシャにとって、それは大したことではない。
水辺があれば、馬を休ませ、それが済めば、また走り始める。
盗賊の姿はなく、夜襲もない。
フランコが遭遇した盗賊団のような集まりを作るのは、既に難しいのかも知れない。
難所の渓谷地帯を抜け、カレンザで必要物資を積み込み、すぐに出発。
珍しくフランコも寝酒以外に酒を口にせず、ただひたすらにレリットランスを目指す。
結果、旅客専用車程ではないが、通常のキャラバンなら十一日の旅程を九日で走破。
衛兵達の出迎えに振り撒く愛想もそこそこに、『黒猫のテラス』をも素通りして、職人ギルドの前に新型キャラバンが横付けされる。
「部品が届いたよ」
「これは仕様書と設計図」
「仕組みを理解したならば、すぐに制作に掛かってね!」
「それと、これは前金!」
シャアリィが、金貨十枚をテーブルに積む。
「私達が近隣の迷宮で魔石を取って来るから、出来る所まで進めて」
アイシャが騎手に、
「馬の世話を頼むね」
「今回の仕事の報酬は受け取ってる?」
「まだなら、商業ギルドで支払いを受けて」
三人は、足早に職人ギルドを出て、小走りに商業ギルドに向かう。
「キャラバンの経費請求が来たら、私の口座から支払って」
「それと大至急、店舗の内装を依頼したい」
「私達の新居一階の硝子張りの広間に魔石の照明を設置してくれ」
「内壁は全て白一色で塗装、鍵は後で届けるよ」
アイシャが次々と指示を出し、やっと一息つける状態になった。
「ナッチェから鍵を受け取って、商業ギルドに渡してくるから、『黒猫のテラス』で待ってて!」
アイシャだけはまた走り出す。
「すごいな・・・まるで予行練習していたみたいだ」
と、フランコが言えば、
「してたよ?『ついたら何をするか』リスト作ってね」
「アイシャは真面目で優秀なんだよ」
と、シャアリィが答える。
衛兵通りを二人が歩いていると、アイシャが商業ギルドに走っていくのが見えた。
「私達は、近場のアンダーロック迷宮まで行ってくるよ」
「レリットランスじゃ風の魔石が手に入りにくいからね」
「往復と狩りで五日もらう」
と、シャアリィが言えば、フランコが、
「では、私は展示店舗の販売員やら、運営の準備をするよ」
「次の出港まであと十八日」
「レリットランスからグリーンノウズへの移動に九日使うから、我々の猶予時間は残り九日」
「多少のズレは許容範囲だとしても、なるべくなら、遅れたくはないね」
喋りながら、『黒猫のテラス』に到着。
「アイシャも後から来るから、何時もの席で!」
これから、しばらく続く、慌ただしい日々に向けて、束の間の休息。
アイシャも到着し、お預けだった祝杯を傾ける。
「これ、忙し過ぎるよね?」
「次回三カ月便にしない?」
「一月くらい休まないと、うんざりしちゃうよ」
と、シャアリィが早くも弱音を吐けば、
「そうだね、三カ月便、年四回なら余裕も出来るね」
「今回は早めに資金回収したくて、ちょっと焦ったから、ごめんね」
と、アイシャも応じる。
「私は三回目からはさすがに付き合えないから、そのほうがいい」
「これだけ長く教会を空けると、ドロテアにどやされるくらいじゃ済まなくなるからね」
「それに少しばかり、子供の面倒を見る仕事が増えたんだよ」
「そっちもちゃんとしてやらなきゃならない」
フランコも、内心は少々焦っているようだ。
駆け抜けるような日々の中。
三つ並んだカンパリソーダのグラスが春の日差しに輝いている。
努力の結実まで、あと少し。




