二度目の海戦
「接近船舶確認!」
「距離約千五百、旅客用中型帆船五、小型帆船多数」
「帆章なし」
グリーンノウズまで残り一日となった午後。
観測手が正体不明の船舶の接近を報せた。
艦隊とも言える陣営は、その構成だけで目的がわかる。
「囲んで脅しを掛けて、拿捕・・・できるとでも思ってるらしい」
「とんだ間抜けだな」
「進行方向そのまま」
「いちいち構っていられるか」
アイシャは面倒くさそうに指示を出す。
「射程距離に入ったら、種明かしをしてやればいいさ」
「小型の帆船など、この船には追い付けない」
距離七百、帆章なしの艦隊は、正面衝突する角度で近付いてくる。
その速度は速くはない。
小型帆船が遅れないように調整しているのだろう。
構わず突き進むマーメイド商会、貨物帆船。
アイシャはにやりと笑い、
「至近距離からフルチャージをぶち込もう」
と、容赦のない戦術を提案。
距離百・・・アイシャから急制動の指示が出た。
・・・
「船団長、やつら停止します」
「我々の数に恐れをなして交渉するつもりですかね?」
「どうしましょう?」
中型帆船の一番艦。
セブール商会幹部、旅客船団支配人ネルソンに観測手が指示を求めた。
「落ち着け」
「まずは接敵、側面から小型帆船の奴らが乗り込む手筈だ」
「我々は海上に留まり、制圧を待ってればいいんだ」
・・・
距離三十。
「シャアリィ、中型帆船が群れているど真ん中に撃ってくれ」
「チャージ開始!」
「私は乗り込んでくる間抜け共を始末する」
何時ものようにシャアリィの足元から吹き上がる魔法風。
螺旋杖を真上に掲げれば、マーメイド商会の貨物船の上に竜巻が発生する。
「カウント二十九・・・二十八・・・二十七・・・二十六・・・」
アイシャが船員に向かって叫ぶ。
「皆、前回と同じように船倉に避難」
落下防止用の手摺に、鉤爪付きのロープが次々と絡まる。
アイシャは、それを見つけ次第、鵺斬りで切断。
『ざぶん』という音は、登り始めたロープから落ちた敵の着水音。
「十・・・九・・・八・・・七・・・六・・・」
飽きもせず、次々と投げられる鉤爪ロープを切る度に、ざぶん、ざぶん。
だが、それも長くは続かない。
「三・・・二・・・一・・・砲撃!」
敵艦隊のど真ん中、直撃コースはたった一隻。
だが、至近距離フルチャージのフローズン・キャノンの余波は、凄まじい。
海面を抉るように放たれた巨大な氷塊が、その周囲の海水をも氷結させる。
横倒しのまま滑るように内側から外側に向かって敵の帆船同士が衝突する。
悪霊の叫び声のような船体のこすれ合う音が響き、水柱を上げて、敵の中型帆船が次々と沈んでゆく。
海上に投げ出された五十人程の者たちが、それを呆然と眺めている。
マーメイド商会の貨物船も又、二回、三回と大きく左右に揺れる。
船倉の中にも揺れは当然伝わったが、丁寧に梱包され頑丈に固定された貨物に被害はない。
何人かが転倒し、軽い怪我を負っただけだ。
フローズン・キャノンが起こした海上の変化に、小型帆船では耐えれるはずもない。
一つ、二つの帆船以外は全て転覆し、海上に裏返しとなっている。
残った帆船が唯一の救いなのだから、そこに向かって皆が泳ぐ。
だが、それを助ければ、重量オーバーで船は沈む。
運よく生き残った小型帆船は、生存者を見捨てて逃げる。
海岸線も見えない海の真ん中・・・静かで青い地獄。




