アンナ・ヘリントス
アンナの工房につき、いつも通りにシャアリィが大きな声で来訪を知らせる。
すると、同じような大きな声で、返事が戻って来た。
「支度するから、待っててえー」
前回の失態を気にしているらしい。
数分後、息を切らしながらアンナが現れた。
「昨日あたりから、少し早めに起きるようにしていたんだ」
「今回は来るってわかってたからね」
こうしてみると、アンナは何処となく従順な大型犬のように思える。
最初に見せていたツンケンとした態度は鳴りを潜め、今はひたすらに愛らしい。
「まぁ、あがりなよ」
「飲んでいいなら、酒も用意するよ?」
「私は早速、何時ものを作るから、適当に寛いでよ」
じゃあ、お邪魔しますと、シャアリィとアイシャは応接室に向かった。
少しばかり趣が変わった応接室は、多分、彼氏の影響だろう。
テーブルの上にある模型と仕様書・・・それは兵器。
「アンナ、これって武器なの?」
と、シャアリィが模型のことを尋ねると、アンナは笑いながら答える。
「武器と言えば武器だけどさ、作る予定なんてないものだよ」
「彼と一緒になんか出来ないかねーって、言いながら戯れに作ったものさ」
アイシャは一目で、その兵器の恐ろしさに気付く。
武器を扱うには、その武器を上手に扱うための特別な練習が必要だ。
アイシャが鵺斬りを自在に扱えるのは、何千、何万回という素振りに始まる熟練に至るまでの長い道のりがある。
だが、この武器は違う・・・ただ引き金を引くだけで、成果が出てしまう。
効果範囲に敵を捉えれば、自動で追尾式の照準を行う。
引き金を引くだけで、魔道カートリッジに込められたあらゆる属性の魔術弾を発射出来る。
その算定基準は、出会ったあの日、シャアリィが見せたフルチャージのウォーター・キャノン。
エネルギーを収斂させるアンナの技術によって、貫通力と射程が五倍程に増加している。
但し、一度の砲撃に魔石百個分相当のエネルギーが必要。
そして、魔石千個のエネルギーにも、この武器は耐えうる。
それを扱うのは、特別じゃない人間のたった一本の指先・・・。
才能のある魔具職人と、武具職人が互いに能力を発揮すれば、こんなものが出来るというのか。
実用化されれば、何千、何万という人間を一瞬で殺すことが出来る。
恐るべき第三級封印指定技師。
アイシャは一瞬迷う。
人懐こい大型犬のような女性を封印指定一級に格上げするべきではないか、と。
そして、それをワイズリートに進言すべきではないかと。
だが、首をぶんぶんと振って、この数分で頭に過ったことを忘却する。
それがアイシャの判断だった。
少なくとも戦さえなければ、これが役に立つ場面など、ない。
それまでは忘れてしまおう・・・。
アイシャは一つの教訓を得た。
シャアリィのように人々の幸せを考えて、魔道動力を使えば世界は幸せになるだろう。
だが、この兵器のような魔道動力の使い方をすれば、世界は地獄と化す。
もしかしたら、旧人類も同じような過程を辿り、そして誤った力の使い方をしたのではなかろうか。
アイシャは、自分の妄想力の逞しさに、少し嫌気が差した。
数時間後、アンナは飛び切り旨いスパイス・スープを作り。
三人は満たされた食卓で、一時の幸せを満喫した。
「アンナ・・・これ、作らないよね?」
アイシャが心配そうな顔をすれば、
「作るかも知れないけれど、兵器として運用するつもりはないよ」
「岩盤の掘削みたいな大規模工事用ならば手を貸すけれどね」
「私や鍛冶師は、死の商人じゃないんだ」
「例え、殺しの道具を作る専門家でも、矜持くらいある」
と、アンナが答える。
シャアリィは、へらっと笑いながら言う。
「私だって、アイシャだって、一般人から見れば殺戮機械なんだよ?」
「でも、力の使い方が間違ってなければ英雄って呼ばれるでしょ?」
「アンナは賢いから、ちゃんとわかってるよ」
そう、信じたい。
三人は友達なのだから。




