到着の宴
ウィトプラナの枢機卿と領主には大きな借りが出来てしまったフランコだが、今こうしてレリットランスに向けて移動している理由を考えれば、心は決して重くない。
多少、時期は、ずれることになるだろうが、ウィトプラナも又、魔動キャラバンの恩恵を受けることになるはずだ。
生活魔具だけでなく、このルートの全てが魔動キャラバンになれば、輸送のコストも安全性も向上するのだ。
だが、まだ、それを明かす時ではない。
レリットランスまでは、旅客専用車両でなくとも残り二日の旅路。
このルートでは、農作物を運ぶキャラバンに紛れる方が安全だろう。
しかも、今回は冒険者二名の護衛も付く。
フランコを含めれば戦闘員五名。
このキャラバンを襲えば、盗賊の命運は容易く尽きる。
そういう万全な状態の時に限って、運命の波風はそよぎもしない。
遂にレリットランス到着だ。
時刻はもうすぐ日没。
三人は先に宿を確保し、ファイヤー亭に向かった。
「ラッシャィイィイ」
扉を開けると背の高い女将が威勢よく出迎える。
店主のアレックスが厨房から客を見やれば、生臭坊主が目に入った。
「おう、神父さん、あ・・・今は枢機卿様だっけな」
「今日は珍しい顔ぶれだね、空いてる所に座ってくれ」
「一番客だから、何処でも選び放題だ」
厨房から、香ばしい匂いがする。
「ご主人、この店はうなぎもやっているのかね?」
と、フランコが問えば、アレックスが、
「ああ、タレは似てるけど、焼くのはうなぎじゃなくて、鳥肉だよ」
「うちの看板商品だ、一本銅貨二十枚のお得な料理さ」
護衛の二人が生唾を飲み込み、フランコが注文するのを待っている。
「まずは、それを三つもらおうか」
「酒は麦酒を三つで」
美食には慣れているフランコだが、焼き鳥の味には驚きを隠せない。
「これは旨い」
「串に刺さっていて食べ易いし、確かに素晴らしいな」
アレックスが不意に、シャアリィとアイシャのことを口にする。
「あいつらは今日は一緒じゃないんだな、元気にしてるかい?」
フランコは思わず、にやけてしまう。
「勿論、相変わらずの自由さで今頃はエンダーベルトからの帰りの船の上さ」
「私も同じ仕事の要件で、この街に来てる」
その言葉に安心したファイヤー亭の面々が、アイシャとシャアリィの健在を喜ぶ。
フランコは、『あいつら』の説明を護衛に、
「この店の人たちは、ドラゴン・スレイヤーたちの身内だよ」
「きみ達も治安対策室で何度か会ってるだろう?」
護衛達の顔も綻ぶ。
「ああ、あの賑やかな子たちですね」
「我々も現場では世話になりました」
旨い酒、旨い料理、そして皆の笑顔。
それを見れば、この数日の陰鬱さは酒に溶けるように洗い流される。
「なにやら、でっけえ仕事、それもここの領主も絡んでるっていうやつ」
「順調そうだな」
ここまでの苦難など、どうでも良くなった三人は、
「少しばかり遅れていますが、ほんの数日です」
「憂いなど全くありません」
護衛達の言葉が、フランコの胸に響く。
年を跨いで約半年、それが実る時がもうすぐ来る。
「あの子たちは人を驚かせるのが大好きですからね」
「今回もきっと、驚くと思いますよ」
「詳しく話したくてうずうずしていますが、まだ伏せておきましょう」
「ご主人も驚かされるの、お好きでしょう?」
「だから、あとは世間話で」
そう言えばと、ナッチェとエレナを見やり、フランコの顔が綻ぶ。
「大切にしてもらっているようですね」
「あの汚れた街も、今は随分と片付きました」
「セブールはグリーンノウズから叩き出してやりましたよ」
「・・・きみ達には苦労掛けましたね」
その言葉にナッチェは笑顔で、
「苦労?はて、神父様にお世話になったことは覚えていますけれど、もう、昔のことですので忘れてしまいました!」
等と、粋なことを言う。
フランコはそれを喜ぶ。
「うん、もう忘れてしまっていいことだったね」
「そう言えば、きみは去年成人だったな、おめでとう」
ナッチェが嬉しそうに答える。
「ありがとうございます」
「お姉ちゃんは、結婚して名前が変わりました」
「今は、エレナ・ルッツです」
エレナが恥ずかしそうに頭を下げる。
フランコは、それを見て熱いものが胸にこみ上げてくるのを感じた。




