こんなに歪な世界で
手痛い二日間の足留め。
中継点からでは貸し切り運行の旅客車両に乗ることは出来ない。
民衆の前で苛烈な裁きをした後では、酒場に繰り出すことさえ憚れる。
宿屋などに泊まれるはずもなく、旅客車両を焼け出された面々は、衛兵宿舎の一室を借りて酒で無聊を慰めるしかなかった。
待ちに待っていたグリーンノウズからのキャラバン到着。
しかし、空いている席は二つだけ。
フランコは思案し、護衛二人を先にウィトプラナに向かわせることにした。
「着いたならば教会に向かい、マルティーニ卿を頼るんだ」
「そしてここまで迎えの馬車を寄越して欲しいと伝えてくれ」
自分のせいで大変な目に遭った騎手を一番に行かせたかったが、グリーンノウズからの便が安全とは限らない。
術式使い二人であれば、余程のことがない限り自衛は出来る。
ここに残れば、さらに数日は様々なことで我慢と警戒を強いられるのだから、フランコ自身が残らなければ衛兵にさえ蔑ろにされかねない。
悪党はグリーンノウズから姿を消しただけで、全て浄化されたわけではない。
まだ周辺には何人、或いは何十人も、潜んでいるのは確実。
思えば、悪党さえもが社会の被害者なのかも知れない。
満足な親の愛や、教育を受けずに育てば、僅かな誘惑で捻じ曲がるのも不思議ではない。
だからと言って許せば、真っ当な善人たちが被害者となる。
何処までいっても、天秤のように二者択一。
救われる者と、救われない者が生まれてしまう。
そして自分が人を裁く天秤であれば、その場の罪の重さに従うしかない。
流れた時の長さは何時も以上に伸びた無精髭が物語る。
ぽっかりと空いた一週間。
黒塗り金十字の迎賓専用車が到着した。
その二日後、フランコと騎手は、ウィトプラナで護衛と再会する。
「申し訳ないことをした」
「状況が状況だけに、馬も御者台も二束三文で売り払わせた分や迷惑料も含めて、その全てを弁済するよ」
フランコは商業ギルドで小切手を手配すると、金貨五十枚の文字を書き入れ、騎手に手渡した。
そして、懐から金貨一枚を取り出して、
「まずは帰りの旅費と土産代」
「物騒な旅行だったと笑って許してくれると助かる」
「私の誠意は結局、金でしか示せない」
「情けなく忸怩たる思いだよ」
頭を下げて騎手に詫びると、
「勿体ない・・・こんなに手厚くして頂いて、その上、枢機卿に頭を下げて頂くなど、恐れ多いです」
「あなたがどれ程心を痛めたかを私は知っています」
「こんなに素晴らしい聖職者の方に出会えたことは生涯忘れません」
フランコは眉間に皺を寄せて、
「私が一番救われるなんて、酷い話ですね」
と、言えば騎手も、
「一番救われたの私です」
と、笑い合った。
――― 神よ。
こんなに歪な世界で多くの者があなたを信じています。
フランコはそれ以上を呟くことを止めた。
神罰の代行者が情けないことを言うわけにはいかない。
それがただの思い込みだとしても。




