悪戯の代償
中継点の街、カレンザ。
人攫いが横行し、暴力沙汰は日常茶飯事。
歓楽街を中心とし、人口は四千人にも満たない。
この街で暮らす者は、商店主、それに雇用される者、その家族。
衛兵は近隣の領地から派遣された余所者だ。
小さな教会と治癒院はあるが、子供を育むための施設は何一つない。
孤児院も、学校も、公園もなく、教会ですら子供を嫌がる。
そもそも、それらはこの街に必要ない。
子供たちは皆、手が空いていれば仕事の手伝いをさせられるか、放置されるかなのだ。
十五才で成人すれば、皆、街を出てゆく。
読み書きも計算も出来ず、この街から出て行けない者は、娼婦か、ごろつきか、商店の下働き。
そんな街を虱潰しに捜索するのは、実に容易い仕事だ。
真昼間に働いていない者達を片っ端からしょっ引いて、身分証明証を要求するだけでいい。
燃料油には独特の匂いがあり、その匂いがすれば言い逃れは出来ない。
結果、数時間で六人の子供が確保されるに至った。
「瓶を投げた子は、これで全部かい?」
と、フランコが子供たちに問うが返事の一つも返ってこない。
一番年上と思われる子供を手招きで呼び、厳しい言葉を投げつける。
「残念ながら、きみ達のしたことは悪戯では済まないんだよ」
そう言うと、不貞腐れている子供の足の脛に鞭のような蹴りを見舞う。
ぱきん、と、渇いた音を立てて簡単に折れる子供の足。
街中に聞こえるような絶叫。
「次は誰の番かな?」
と、フランコが並ばされた子供たちを眺めれば、その足はガタガタと震え、同じようにガチガチと歯を鳴らせた。
「返事も出来ないか、じゃあ、私が選ぼう」
「そこの背の高い女の子、私は女の子だって容赦はしない」
「瓶を投げた子は、これで全部かい?」
少女の弟らしき子供が、震える声で白状する。
「あと二人隠れてる」
フランコは目配せで衛兵をもう一度街に向かわせる。
数分後には隠れていた子供二人も見つかった。
「じゃあ、次の質問だ」
「きみ達にあんな事をさせたのは誰かな?」
先程答えた少年が、
「知らないおじさん・・・僕らに銀貨を一枚づつくれて、油と瓶を用意してくれた」
先程、街道を歩いていた男が衛兵に連れられてきた。
「このおじさんかな?」
少年が大きく頷いて、
「そうだよ・・・正直に話したんだから、もう、僕は帰っていいよね?」
フランコは少年の頭を撫でて、
「きみはこの中で一番賢かったけれど、まだ、帰れないよ」
「否、もう、帰れないが正しいかな」
子供たちの顔が蒼褪め、その場で腰を抜かして失禁する子もいる。
「悪戯では済まない、と、言っただろう?」
「許して欲しければ、まず、燃やした馬車を今すぐ弁償すること」
「出来なければ、利子を付けた額が貯まるまで炭鉱で命懸けの強制労働だね」
「生きていたなら、その続き」
「枢機卿である私の旅程を妨害した罪で、十年は牢屋に入る」
「帰ってこられるまでに、多分、二十五年は掛かるだろう」
「それが、たった一枚の銀貨と引き換えに、きみ達がやったことだよ」
「まだ、終わりがあるだけマシさ、きみ達は人殺しになって死刑か奴隷になる所だったんだ」
子供たちは泣き喚きながら謝り、許しを請う。
苛烈な宣告に、衛兵さえもが顔を曇らせる。
だが、異論を口したならば、自分にも責めが及ぶのだから、黙るしかない。
やがて、子供の親たちが集まり自分の子供の赦しを請うが、フランコから馬車の弁償を求められば、そんな金はないと我が子を切り捨てた。
「じゃあ、この子たちはいらないのだね?」
フランコの最後の問いに、親たちが頷く。
哀し気な目で、親を見つめる子供たちの目から希望の光が消えた。
子供を唆した男は、木で組んだ十字架に磔にされ、その臓腑を衛兵達が槍で抉り、夕暮れさえ待たず処刑された。
最早、子供たちに居場所はない。
最終的にはグリーンノウズの孤児院へと送られた。
それは子供たちを負の連鎖から救う小さな善意だが、多分、フランコは子供たちから生涯恨まれることになるだろう。
それを承知の上で、悪役を請け負う。




