束の間の語らい
お互いに会えなかった時間の出来事を語り尽くしせば、一年足らずの間にいろいろなことがあったと気付く。
「成程、それで商人の道を選んだのか」
「私もこの島を出られたらなぁ」
と、アンナは少しばかり顔を曇らせる。
「出来ないことを出来るようにするなら、方法はあるよ」
「アンナが立法出来る立場になればいい」
「議会議員、領主、枢機卿、そこまで登り詰めれば叶う」
「でも、旅をしている私達が言うのも何だけれど、結局は故郷みたいな場所が一番さ」
「だから、私達もレリットランスに家を買った」
アイシャの言い分は辛辣だが、友達だからこそ誤魔化さない。
シャアリィは少しばかりアンナに同情する。
「初見殺しの罠みたいなもんだからねー、アンナにしてみればさ」
「自分が成長することで、自由を奪われるなんて酷い話」
「でも、嘆いても仕方ないことより」
「『だったらどうする』を考えるほうがいいね」
アンナが物騒なことを言う。
「まぁ、本当に島を出たくなったら、何処かの領地に亡命申請するさ」
「それにこの年になると面倒なことは出来るだけ省きたい」
「私は効率優先だからね」
いつも通りの飄々とした笑みでフランコが言う。
「ヘリントス女史の言うことは私も理解できるよ」
「私達みたいな立場に縛られる人間にとって、アイシャやシャアリィは少しばかり眩しい」
「強固な意志、立ち止まらない脚、そして結果が伴っている」
「でも、それだけの代償を支払っているからこその対価だからね」
「少しばかり秀でていた所で、この子たちの真似は出来ない」
「まぁ、ちょっと悔しいけれど、我々は待つ身だよ」
アンナはフランコの言葉に大きく頷く。
「まぁ、結局、そうなんだよね」
「本当に世界ってのは理不尽だけれど、それに真向から立ち向かうなんて正気じゃない」
「私達じゃ越えられない壁はそこにあるんだから、諦めて待つとしよう」
夜が更ける前にアンナに別れを告げ、次回の再会を約束する。
「明日、エンダーベルトを出て、私達はグリーンノウズに戻る」
「今度は中型帆船での半月の航海」
「一ヶ月以内には、また、会えるよ」
と、アイシャが言えば、アンナは素直に自分の気持ちを伝える。
「楽しみにしているよ」
「時間があれば、私がまた、スパイス・スープを作る」
「だから、ここに来たら面倒でも、必ず、私のとこに顔を出してくれ」
「私は友達が少ないんだ」
「本当に楽しみにしているよ」
シャアリィは、じゃあ約束ね、と、『黒猫のテラス』のチョコレートの最後のひとつをアンナに渡す。
三人を見送った後、アンナがそれを口に含めば、寂しさで少しばかり涙が溢れた。
・・・
翌日、午前、ヴィルテの元に立ち寄り、経過を報告した後、その足で職人ギルドに向かい、メイヤーから契約証と見積もりを受け取る。
その場でアイシャは見積もり通りの金額の商業ギルド小切手を切り、受領証を代わりに受け取った。
足早に市場を回って、帰りの航海に必要な物を手配すれば、ちょうど昼食の時間。
『シードラゴン』で麦酒とピザを摘まみ、少し休憩。
係留場に運ばれてきた物資をアイシャとフランコが積み込む。
「また、苦痛の六日間が始まるのか・・・」
と、シャアリィが言えば、アイシャは海図で方角を割り出して、
「帰りは少しばかり早く着くよ」
「海岸線を走らずに、一直線にグリーンノウズに向かうからね」
「夜間海流に流される分の誤差は後半で修正可能だ」
フランコが反省を込めて、
「グリーンノウズに着いたら、まずは交代でシャワーだね」
「そうしないと、また、磯臭いと叱られる」
三人は仲良く笑って、高速艇に乗り込む。
帰路はアイシャの言う通り、少しばかり時間を短縮し、六日目の午前には、グリーンノウズの港についた。
連日連夜、フランコは疑似餌を投げたが、その釣果は小さな烏賊が一匹。
それでもご馳走には違いなく、翌日の朝食に少ない切り身を三人で分け合って食べた。
メイヤーとの約束の期日まで、残り二十四日。
フランコは、レリットランスに向かい、キャラバン車両を受け取ってグリーンノウズまで移動させる役目を負う。
シャアリィとアイシャは数日をグリーンノウズで過ごし、中型帆船でエンダーベルトへ。
エンダーベルト初の生活魔具大規模輸出計画も、いよいよ大詰めだ。




