生活魔具の秘密
翌日、大規模輸出の承認書が領主府で発行された。
それを持って、シャアリィ、アイシャ、フランコが向かう先は職人ギルド。
「買占めにならない程度の購入」
「それならば一度にどれくらいの数が揃うのか」
フランコの問いにすぐに答えられる者はいない。
職人ギルドとしては、初めての大規模輸出なのだから。
その中でただ一人、生活魔具工房の棟梁、ヴィンセント・メイヤーが声を出す。
「品物を限定してもらえれば、一つの基準が示せる」
「俺達は内部機構と、操作に必要な部品を作る」
「仕上げをするのは家具職人や道具職人だ」
「その作業工程は、機能によって随分差があるんだ」
フランコは、シャアリィとアイシャに問う。
「手堅く行きたいね」
「最も需要が高い生活魔具はなんだと思う?」
シャアリィは、髪を乾かすための温風器を選び、アイシャは空調機を選んだ。
メイヤーは、専門的な言葉で応じる。
「二極と、四極、か」
「二極なら、数百でも作れるが、四極だと、三十くらいだな」
頭に疑問符と乗っける客人三人に対して、メイヤーが補足する。
「温風器は、火と風の二極」
「空調機は、火と、少し高めの氷結、吹き出し用の風、排熱用の風の四極」
「つまりは、魔石の数で極数が決まり、極数が多ければ作業工程も多い、ってことだな」
「あとは外側部分の工程次第」
「空調機は真四角な箱でも問題ないが、手持ち温風器は多少複雑な形だから、外側部分の工程は、手持ち温風器の方が厄介だ」
「まぁ、口で説明するより、工房を見てもらうほうが早いな」
シャアリィが驚く。
「え?見学してもいいんですか?」
メイヤーは、シャアリィの杖を指差し、
「あのヘリントスが杖を作る相手なら、信用するさ」
「最低限、金持ちだってことだからな」
と、笑った。
・・・
メイヤーの工房。
職人が制作している途中の温風器を取り上げ、その中身を見せながら、説明が始まった。
「これは皆が知ってるもの、魔石だな」
「風の魔石と、火の魔石が入っている」
「そして、それが中央付近にある白い鉱石に近付くと・・・」
部屋の中に、ぶわっと風が吹く。
「この白い鉱石とそれを乗せている魔道基盤、これが生活魔具の心臓部、インジェクターだ」
「仕組みは今見た通り単純、白い鉱石に反応して魔石がエネルギーを放出する」
「だから、レバーやボタンなんかで、その距離を調節するんだ」
「この白い鉱石と魔道基盤に関しては、秘伝」
「棟梁の後継者にしか教えない」
「だから、中身を見せた所で、俺達は平気なのさ」
「壊れたら修理も必要だし、中身を開けて見られることくらい織り込み済み」
シャアリィが面白いことを言う。
「じゃあ、ぶっちゃけ、魔道基盤と白い鉱石だけ買えば、他の街の職人ギルドでも製品が作れるっていうこと?」
メイヤーは、その考察に首を縦に振る。
「その通り」
「まぁ、普通、そう来るわな」
「それでいい」
「家具職人や道具職人の連中も、生活魔具より他のものを作るほうが儲かるんだ」
「納品期限を決められた仕事は奴らも嫌だろう」
「勿論、やりたいなら仕事をさせればいいんだ」
アイシャが言う。
「では、インジェクターを買い付けよう」
「ちなみに馬車を引かせるための動力車両、それに使うインジェクター」
「それはどういうものになるかな?」
メイヤーはすぐに答えを出す。
「高速艇のインジェクターよりも強力なものが必要だ」
「あれは風だけの三極、推進用に二極、減速、停止用に一極」
「地上の環境抵抗ってのは少ないんだ・・・それは動力伝達が悪いことを意味する」
「馬車と同程度の速度で三極、荷物を運ぶなら、その倍以上」
「俺なら、八極で作るね」
「だが、減速や停止には魔石は必要ない」
「従来の馬車についているブレーキを大型化すればいい」
「新規で八極を設計するとなると、時間と費用はかなり掛かるが・・・」
アイシャは即答。
「前金でも構わないし、手付金を払って最終精算でもいい」
「損はさせたくない、十分な利益を乗せて構わないから、そちらも頼む」
「初回から何度かは、市場に並ぶ品を全種類ひとつづつ買わせてもらおう」
「展示品がなければ恰好が付かないからね」
「まずは、一ヶ月後、四極インジェクターを三十、二極も同じ数」
「取り扱い説明書を同数、揃えて欲しい」
「明日にでも、売買契約書と金額の見積もりが出来れば、商業ギルド発行小切手で応じるよ」
降って湧いた大きな取引に、メイヤーは豪快に笑う。
シャアリィ、アイシャ、フランコは順調な進展に安堵した。




