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氷結のシャアリィ  作者: 黒猫テラス運営部
大商人街道編
457/609

生活魔具の秘密

翌日、大規模輸出の承認書が領主府で発行された。

それを持って、シャアリィ、アイシャ、フランコが向かう先は職人ギルド。


「買占めにならない程度の購入」

「それならば一度にどれくらいの数が揃うのか」


フランコの問いにすぐに答えられる者はいない。

職人ギルドとしては、初めての大規模輸出なのだから。

その中でただ一人、生活魔具工房の棟梁、ヴィンセント・メイヤーが声を出す。


「品物を限定してもらえれば、一つの基準が示せる」

「俺達は内部機構と、操作に必要な部品を作る」

「仕上げをするのは家具職人や道具職人だ」

「その作業工程は、機能によって随分差があるんだ」


フランコは、シャアリィとアイシャに問う。


「手堅く行きたいね」

「最も需要が高い生活魔具はなんだと思う?」


シャアリィは、髪を乾かすための温風器を選び、アイシャは空調機を選んだ。

メイヤーは、専門的な言葉で応じる。


「二極と、四極、か」

「二極なら、数百でも作れるが、四極だと、三十くらいだな」


頭に疑問符と乗っける客人三人に対して、メイヤーが補足する。


「温風器は、火と風の二極」

「空調機は、火と、少し高めの氷結、吹き出し用の風、排熱用の風の四極」

「つまりは、魔石の数で極数が決まり、極数が多ければ作業工程も多い、ってことだな」

「あとは外側部分の工程次第」

「空調機は真四角な箱でも問題ないが、手持ち温風器は多少複雑な形だから、外側部分の工程は、手持ち温風器の方が厄介だ」

「まぁ、口で説明するより、工房を見てもらうほうが早いな」


シャアリィが驚く。


「え?見学してもいいんですか?」


メイヤーは、シャアリィの杖を指差し、


「あのヘリントスが杖を作る相手なら、信用するさ」

「最低限、金持ちだってことだからな」


と、笑った。

 

・・・


メイヤーの工房。

職人が制作している途中の温風器を取り上げ、その中身を見せながら、説明が始まった。


「これは皆が知ってるもの、魔石だな」

「風の魔石と、火の魔石が入っている」

「そして、それが中央付近にある白い鉱石に近付くと・・・」


部屋の中に、ぶわっと風が吹く。


「この白い鉱石とそれを乗せている魔道基盤、これが生活魔具の心臓部、インジェクターだ」

「仕組みは今見た通り単純、白い鉱石に反応して魔石がエネルギーを放出する」

「だから、レバーやボタンなんかで、その距離を調節するんだ」

「この白い鉱石と魔道基盤に関しては、秘伝」

「棟梁の後継者にしか教えない」

「だから、中身を見せた所で、俺達は平気なのさ」

「壊れたら修理も必要だし、中身を開けて見られることくらい織り込み済み」


シャアリィが面白いことを言う。


「じゃあ、ぶっちゃけ、魔道基盤と白い鉱石だけ買えば、他の街の職人ギルドでも製品が作れるっていうこと?」


メイヤーは、その考察に首を縦に振る。


「その通り」

「まぁ、普通、そう来るわな」

「それでいい」

「家具職人や道具職人の連中も、生活魔具より他のものを作るほうが儲かるんだ」

「納品期限を決められた仕事は奴らも嫌だろう」

「勿論、やりたいなら仕事をさせればいいんだ」


アイシャが言う。


「では、インジェクターを買い付けよう」

「ちなみに馬車を引かせるための動力車両、それに使うインジェクター」

「それはどういうものになるかな?」


メイヤーはすぐに答えを出す。


「高速艇のインジェクターよりも強力なものが必要だ」

「あれは風だけの三極、推進用に二極、減速、停止用に一極」

「地上の環境抵抗ってのは少ないんだ・・・それは動力伝達が悪いことを意味する」

「馬車と同程度の速度で三極、荷物を運ぶなら、その倍以上」

「俺なら、八極で作るね」

「だが、減速や停止には魔石は必要ない」

「従来の馬車についているブレーキを大型化すればいい」

「新規で八極を設計するとなると、時間と費用はかなり掛かるが・・・」


アイシャは即答。


「前金でも構わないし、手付金を払って最終精算でもいい」

「損はさせたくない、十分な利益を乗せて構わないから、そちらも頼む」

「初回から何度かは、市場に並ぶ品を全種類ひとつづつ買わせてもらおう」

「展示品がなければ恰好が付かないからね」

「まずは、一ヶ月後、四極インジェクターを三十、二極も同じ数」

「取り扱い説明書を同数、揃えて欲しい」

「明日にでも、売買契約書と金額の見積もりが出来れば、商業ギルド発行小切手で応じるよ」


降って湧いた大きな取引に、メイヤーは豪快に笑う。

シャアリィ、アイシャ、フランコは順調な進展に安堵した。


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