女帝のお茶会
エンダーベルト領主、フェリッチオ・ティンベル。
彼を一見で領主と気付ける者はいないだろう。
彼自身、自分を凡庸な人間だと理解しているほどに、温厚。
治世に関しても、その殆どをヴィルテに任せている。
だが、ヴィルテに言わせれば、この男程エンダーベルトの領主に相応しい者はいないと言う。
大局観と観察力、そして決断力。
それに関してはヴィルテも太鼓判を押す。
「「ようこそ、エンダーベルトへ」」
午後二時。
ティンベルとヴィルテは、声も揃う程の仲らしい。
それは互いを呼び捨てにすることからも、想像出来る。
「面白い話を聞かせて下さるお客様、粛清枢機卿とドラゴン・スレイヤー」
二つ名で紹介されて、苦笑いの三人。
「初めまして領主様、ジョルジアット・フランシスコと申します」
「噂では耳にしていましたが、素晴らしい景観ですね」
と、言えば、ティンベルも、
「ヴィルテの手腕のお蔭ですよ、私はのんびり屋でしてね」
「さて、面白い話と言うのは?」
ティンベルの問いに、アイシャが単刀直入に答える。
「生活魔具の輸出についてです」
「この街の素晴らしい生産品を大量購入したい、と、私達は考えています」
「そして大陸に、その流通網を準備しています」
「この豊かな島は、さらに豊かになり、アーシアン全土の生活水準も向上します」
ティンベルは考えることもなく、ヴィルテに意見を聞く。
「ヴィルテはどう考える?」
女帝が軽く笑って、アイシャに答える。
「この島は既に豊かだし、少なくとも財源に困っている訳でもないですからね」
「お金が儲かるだけの話ならば、少々、魅力に欠ける」
「正直な話、そちらは膨大な利益を得るけれど、私達にはあまり得はない、かと」
風向きが良くない。
シャアリィはそう感じるが、ヴィルテの言い分もわかる。
「確かに、この島は素晴らしいですからねー」
「私も半年程滞在して、永住したくなっちゃいましたから」
「欲しいものは何でもあるし、気候もバカンス向き」
「観光客は皆金持ちで、ここに癒されに来る」
「楽園の島・・・そう考えると、そちらにはメリットがあまりないですね」
半ば諦めたような発言にアイシャも、フランコも黙る。
ヴィルテが楽園の島という言葉に反応した。
「楽園・・・確かにそう見えるかも知れないわね」
「でも、皆、何故か楽園には住みたがらない・・・何故かしら?」
フランコが言う。
「お金がないからですよ」
「ここまで来れるのは、限られた人間だけなのです」
「ドラゴン・スレイヤーたちは、沢山の魔石を採取出来るから、ここでも生活出来ます」
「ですが、普通の人間がここに定住するにはハードルが高い」
「それに、多くの大陸のひとは、エンダーベルトという名前くらいしか、この楽園のことを知りませんからね」
「ここは楽園と言っても、『金持ちだけの』という前提が付くのです」
ティンベルは顔を少し曇らせて、
「あなた達なら、それを変えることが出来ますか?」
「この島で領民が幸せに暮らし、誰もが恩恵を受けるようになる」
「衰退しつつある地元の集落の活性化、新しい入植者の移住」
と、問えば、アイシャは、
「アーシアン全土の生活の向上、です」
「この島も当然、アーシアン連合国の領地」
「私達だけが利益を得るなんて、考えていません」
シャアリィも笑顔をヴィルテに向ける。
「私達の輸送キャラバンで、エンダーベルトの宣伝をします」
「製品を手にした人の何割かは、それだけで興味を示すでしょう」
「まずは人口を支える」
「そして、最終的には、ポリシェック岬周辺の開発」
「レリットランスから、エンダーベルトまで、南一直線の新ルート」
「何十年も掛かる大仕事ですが、とても面白い話」
どうでしょう?
と、問うまでもなく、ティンベルもヴィルテも目を輝かせる。
「やっぱり、穏やかじゃなかったわね」
「歴史を変える提案をありがとう」
ヴィルテは、シャアリィのティーカップに新しいお茶を注いだ。
それは領主と枢機卿の承認の合図。
次の会合は職人ギルドだ。




