海を越えて
三日目の日暮れ、高速艇はポリシェック岬に到着。
ここから南に一直線。
操舵舵の前に備え付けられたコンパスだけが頼りだ。
不燃カンテラの魔石に魔力を通せば、船の上だけが明るく照らされる。
それを消せば、夜の空にも星の海。
昨晩、フランコが疑似餌という魚を模した釣り針で釣り上げた大きな魚は、イエローテイルと言うらしい。
用意周到に持ち込んだ大豆ソースと山葵、熱調理は出来ないので当然、刺身。
残念だが食べきれなかった分は廃棄。
今晩も大物を釣るぞと張り切っている。
・・・
フランコの竿に再び大物が掛かることはなく、予定通り六日目、日没直前、高速艇はエンダーベルトに到着する。
残念なことに港が自由船舶を受け入れる時間に間に合わなかった為、上陸は一日、先延ばし。
他の船舶と衝突しないように、港から少し離れた場所で、海上の最後の夜を過ごす。
「快適ではなかったけれど、貴重な体験だったね」
と、シャアリィが言えば、フランコも同意する。
「ああ、実に面白い海の旅だったよ」
アイシャも、
「十日分計算で用意したから良かったけれど、水はギリギリだったね」
「毎日シャワーを使うなら、もっと多めに必要だ」
三人は星空を見上げて、少しばかりお喋りを続けた。
翌朝、午前九時、桟橋の係留担当に船を任せ、入港の手続きを終えた三人は、諸島群大教会へと向かう。
その目的は、諸島群枢機卿『女帝』ヴィルテとの面会。
大きな島とは言え、その領地は狭い。
それなのに教会の建物は巨大で、洗練された近代建築。
朝の散歩の帰りなのか、偶然にもヴィルテと出くわす。
「おや、こんな所で何をなさっているの?」
「粛清枢機卿にドラゴン・スレイヤー」
「きな臭い事の持ち込みは勘弁してもらいたいのに、どう見ても穏やかじゃない顔ぶれね?」
多分、誰が見てもそう思う。
フランコは苦笑いしながら、
「まぁ、バカンスで来たわけではありませんが、厄介事でもありませんよ」
「むしろ、ヴィルテ卿には面白い話かと」
その言葉に続き、アイシャも遠回しに言う。
「双方、否、アーシアン全土にとって利益のある話です」
「是非、お話出来るお時間を作って頂きたく」
ヴィルテがシャアリィを手招きする。
「琥珀のシャアリィ、あなたもそう思うの?」
「先日の『受難の聖女』との戦い、負けてしまったけれど、私は応援してたのよ?」
シャアリィが、ちろりと舌を出して、
「頑張りはしましたが、アレは私でもどうにもなりませんでした」
「貴重なお時間を頂くくらいの価値はあると、保証します」
「出来れば、領主様もご同席下さると、もっと、楽しいかと」
ヴィルテがにこりと笑い、
「強くて、勇敢で、素直で、欲張り、それでいて可愛らしい」
「ドラゴン・スレイヤーがここに移住してくれればいいのに」
「あなたの希望通りにしましょう」
「午後二時、教会の中庭で皆でお茶会」
「お菓子もたっぷり用意するから、お昼を食べすぎないようにして?」
ヴィルテは随分とシャアリィを気に入っているようだ。
「あなたたち、少しばかり磯臭いわ」
「お茶会の前にシャワーを浴びてらっしゃいね」
シャアリィ達三人は揃って、苦笑した。




