南の島への航海
中型にしろ、大型にしろ、帆船を動かすには多額の人件費が掛かる。
エンダーベルト近海に停泊させるならば、その日数に応じて滞在経費も必要だ。
それに足も遅い。
海上での戦闘に備えて覚えた高速艇の操縦だが、早速役立つ時が来た。
初っ端から海の上で数日を過ごすという冒険。
フランコは呑気に釣り竿など持ち込む。
「えっと、フランコさん?」
「それは何?」
「ここらへんの海にはセイレーンもうようよいるんだよ?」
シャアリィの眉間がぴくぴくと動く。
アイシャは航海に必要な保存食と飲料水などを船に運び込む肉体労働。
良い鍛錬になる等と冗談みたいなことを言う。
片道六日。
それは上手く操縦出来たらの話で、実際には一日、二日は余分に掛かるかもしれない。
マーメイド商会の支配人が、荷物の確認を手伝ってくれたので、多分、抜かりはない。
何処で寝るかと言えば、座席の間の狭い隙間に寝袋。
即ち海上サバイバル。
「六日分にしては、お酒多過ぎない?」
と、問えば、
「海の上の夜は長いんだぜ?」
「夜釣りしながら、俺が見張りをするんだ」
等とそれらしい事を言う。
・・・
初心者でも行ける安全なコースと言えば、海岸線と並行に走らせ、ポリシェック岬から南に進路を取ればいいらしい。
多少コースを外れてもエンダーベルト本島は巨大な島だ。
アイシャの視力ならば見逃すこともないだろう。
三人の役割分担は、日の出から午前中がアイシャの操縦。
午後から日没までがシャアリィの操縦。
フランコは適度に仮眠しながら、夜の見張りに備える。
雑用その他は、操縦していない方がやる、と、ざっくり決めた。
桜の花に見送られながら、高速艇が飛沫を上げる。
こんな速度の乗り物は地上にも海上にも他にない。
あっという間にグリーンノウズの港が小さくなり、視界から消える。
「こりゃ爽快だな」
「今度暇な時に私にも操縦を教えてくれないか」
そう言いながらクーラーボックスからソーダを取り出し、シャアリィとアイシャに手渡す。
ここまでくると教会からの鐘の音は聞こえない。
フランコは捩じ巻き式の懐中時計を懐から取り出して、時報。
「今、午前十時だよ」
「腹が減ってきたが、もう少しの辛抱だな」
前列の椅子で寛ぐシャアリィが、二人にチョコレートを配給。
「これで昼まで凌げるね」
アイシャが前を向いたままで、
「今日は出発が遅かったから、私が食事を作ろう」
「三日分くらいはまともな食材もある」
「とは、言ってもハムとかチーズとかソーセージ」
「この小さな船の上では火が使えないから、温かいものは暫くお預けだ」
後方からの風の巻き込みは思ったよりも酷くない。
荷物を置くために倒した後部座席周辺には風が及ぶが、中間座席まで来れば、そよ風程度。
運転席や、シャアリィが寛ぐ前列は、ほぼ無風状態。
潮の香りも陸より気にならない。
多分、嗅覚が馴染んできたのだろうが。
左側を見れば海岸線。
前も後ろも右側も見渡すばかりの青い海。
最初は高鳴っていた胸も、この先の長い航路を考えれば既に気が重い。
「なんか、めんどくさくなってきた」
シャアリィが言うと、アイシャも、フランコも、笑う。
「勿論、面倒に決まってるよ」
「この海の上じゃ、全部、自分達でやるしかない」
と、アイシャが言えば、フランコも、
「ここじゃ金なんて役に立たない」
「役に立つのは知恵と体力くらいさ」
不安定な足場では、くるくる回るわけにも行かず、シャアリィはフランコの隣に座って荷物の横で風に髪を遊ばせながら、高速艇から伸びる白い軌跡を眺める。
「早くエンダーベルトに着かないかなぁ」
「揺れるから本読むと目が回るし・・・」
そう言えば、と、フランコが指差すのは出入口付近に備えられた建物と呼ぶには小さな部屋。
「あそこの中には何があるんだ?」
シャアリィも、アイシャも答えない。
「自分で確認するか」
と、フランコが開けた扉の向こうは、
・・・シャワールームとトイレだった。




