高速艇
レオパルド、シャアリィ、アイシャは、揃ってマーメイド商会の事務所に顔を出す。
今日は、元商会長であるイーサン・グレッグとの会談だ。
「やぁ、レオ」
と、親し気に声を掛けるグレッグは、少しばかり足腰が悪いらしく、車椅子。
老人と言うには若いが、それでもレオパルドよりかなり年上だろう。
「グレッグさん、この度は有難うございます」
「今日は共同経営者となる若き野心家も一緒ですよ」
アイシャとシャアリィは丁寧にお辞儀をした後、
「お初にお目に掛かります、アイシャ・セロニアスです」
「もうひとりは、シャアリィ・スノウ」
「この度は、提案を受け入れて頂き、心より感謝しております」
アイシャの言葉に頷きながら、グレッグは楽しそうに目を細める。
「若い頃の無理が祟って、この様さ」
「隠居するにはちょうどいい頃合い、私も感謝しているよ」
「レオは、私の言い値を値切ることもなく承知してくれたからね」
「是非、私の育てた商会を有効に活用してくれ給え」
「レオの所で遊ばなければ、もう少し大きく出来たかも知れんがね」
「だが、遊んでいなければ、こんな素晴らしい縁もなかっただろう」
「人生というのは面白い」
レオパルドは笑う。
「ええ、不思議なものです」
「やりたいことの歯車が噛み合っていくのは痛快」
「それでも、そうなるまでには何時だって代償があるのです」
「今日はひとつ、お願いがありましてね」
「我々に高速艇の操縦を教えて頂けないでしょうか」
「せっかくの素晴らしい船ですから、私達も自分で操縦したいのですよ」
グレッグは、テーブルの上のハンドベルを鳴らし、支配人を呼ぶ。
「こちらの方々に高速艇の扱いを教えて差し上げなさい」
まだ、表向きはグレッグの商会だ。
三人は客人として、ここに立っている。
「畏まりました、安全のために救護ジャケットを着て頂きます」
「ゴムという伸縮する素材で出来ていますので、少々、嵩張りますが、ご容赦を」
・・・
救護ジャケットは、独特の匂いのする素材で、空気を入れて膨らませば水に浮かぶ。
これならば、海の中に落ちて泳げなくとも溺れなくて済む。
「こちらが操舵舵、その隣のレバーが出力調整器、赤いボタンが動力開始、青いボタンが動力解除」
「最初はあまりレバーを引き過ぎないことと、操舵舵を傾け過ぎないことに気を付けて下さい」
「船は常に水の抵抗を受けていますから、急激な操作をすると転覆してしまいます」
「徐々に速度を上げる、操舵舵を傾ける時には速度を落とす」
「それが上手に操縦するコツですよ」
操縦士は目線が高くなるハイ・スツールに座り、その後ろに三人掛けの椅子が三列、合計九名まで乗れる。
少々手間が掛かるが後部二列は畳んで収納することが出来る。
前方と側面には硝子製の風防があり屋根もあるが、乗り込み口である後方には風防がない。
真冬に乗るには、少々厚着しなければ相当に寒いだろう。
最初に操縦したのはレオパルド。
「こりゃあ、面白い」
「それに帆船より、ずっと早いな・・・速度を落とせば小回りも利く」
すぐにコツを掴み、自在に操船する。
シャアリィも、アイシャも、最初こそ恐々だったが、慣れれば爽快さに憑り付かれる。
この動力がキャラバンに乗るならば、快適だろう、と、想像出来る。
一人一時間程、堪能すれば、日も傾き始めた。
「今日はありがとう」
「貴重な経験をさせてもらったよ」
レオパルドが支配人と握手を交わし、三人は港を後にした。




