衝撃の宴会、再び
三月最初の安息日。
シャアリィとアイシャは、ファイヤー亭での宴会を予告した。
「そろそろ私達は自分の仕事に戻るよ」
「その前に、皆に酒と料理を振舞おうと思ってね!」
滞在中にこっそり集めたスパイスの数々。
作る料理は勿論、スパイス・スープ。
さすがにアンナの工房のような、スパイスの磨り潰し機もなければ、微塵切り機もない。
職人ギルドで特大の寸胴鍋を手にいれて、あとは全てが手作業の根性料理。
今日は予め貼られる『貸し切り』の報せ。
昼食を済ませると、すぐに準備に取り掛かった。
さすがにアイシャは感覚遮断をしてもスパイスにやられるので、ペースト作りはシャアリィの担当になった。
そして、玉ねぎの微塵切りもまた、アイシャには余りにも厳しく、それもシャアリィの担当に。
アイシャは揚げ物担当となり、特製フライドチキン、フライドポテト、クリームコロッケ等を作り始める。
揚げ物とスパイス・スープは、絶妙に相性がいい。
「なんだなんだ、今度は何を作ってやがる、魔女の薬のような匂いだぞ」
「ん、でも、なんか、身体に良さそうな気もするな」
「それに・・・腹が減る」
アレックスが、ちょいちょいとシャアリィの作業を眺めに来る。
その後ろで、オルチェはまたしてものたうち回る。
「ぐ、ぐ、ぐ、まだ、まだ、我慢できる」
「それ、完成まで何時間くらい掛かるんだい?」
「下手したら、何か腹に入れておかないと、空腹で倒れる」
シャアリィはすっとぼけて、さぁ?
「夜までには出来るよ?」
と、平然と答える。
シャアリィとアイシャは、これを見越してポケットにチョコレートを確保している。
それから一時間程でスパイス・ペーストが仕上がり、次は大量の玉ねぎを炒める。
甘味が染み出した香ばしい匂いに、オルチェがまた悲鳴を上げる。
「何か手伝いますか?」
と、キャナリィ親子もそわそわし始め、ナッチェはチョコレートでドーピング。
寸胴鍋に水を入れ、用意された具材が次々と放り込まれる。
強火の炎で一気に沸騰、そこからは蓋を閉じて弱火でぐつぐつぐつぐつ。
「あとは、待つだけなんだけど、マリウスは食べ盛りだし、ライスは爆盛りで沢山炊こうね」
と、アイシャに作業を依頼する。
時々ぺこぺこと動く鍋の蓋から洩れてくる蒸気は、予想以上に食欲を掻き立てる。
ナッチェはその横で、大量のサラダを刻んで大皿に盛りつける。
「あー、また、ケーキ忘れた」
都合良く現れるエドワード夫妻に金貨を渡し、ケーキの購入を依頼する。
そして迎えた午後七時。
「お待たせしました、シャアリィ特製スパイス・スープです」
「ライスと合わせて召し上がると、昇天出来ますよ?」
一瞬、目に沁みるような蒸気を伴い、地獄の釜の蓋が開く。
皆の空腹は限界点・・・そして、スープを一口啜り、一同が一斉に咽る。
「ひぃー、辛い辛い辛い・・・いや・・・旨い」
「おおおお、辛い、旨い、辛い、旨い、ライス、ライス!」
「おう、そういうことか・・・ライスで中和して食べる料理か」
アレックスの言葉で、皆、皿にライスを盛り盛り、スープに浸して口に運ぶ。
「野菜うまぁ、肉うまぁ、蕩けるー」
酒を飲むのも忘れて、皆がスープに夢中になる中、アイシャがさらに、
「揚げ物を挟むと、無限ループだよ」
と、言えば、皆のフォークが揚げ物に刺さる。
マリウスの皿がすぐに空になって、ナッチェが新たなスープを注ぐ。
「サラダに癒されますね・・・この料理は罪深い」
エレナと、オリビアが視線を交わす。
「これは是非、私達も覚えなければ、ですね」
オルチェはただ、料理に夢中。
マリウスが呟く。
「焼き鳥もすごいけれど、このスープもすごい」
「ご主人のお店の二号店か、このスープの専門店か、悩みます」
美味しい料理は人を幸せにする。
皆に様々な記憶を残して、シャアリィとアイシャは又、旅立つ。
次に戻る時には、きっと他の誰かがスパイス・スープを作るだろう。




