新婚さん
踏破記念治癒院の設立に伴い、宿を引き払って治癒院の宿舎に寝泊まりするエドワードだったが、結婚を機に広めの月極宿を借りて、今はそこに住んでいる。
夜勤や安息日の勤務から解放されたエドワードだが、エレナの仕事もあるので、夜は一人。
食事がてらファイヤー亭に顔を出したり、院長室で書物を読んだりして時間を潰す。
現状、新婚ながら安息日と月曜日の夜くらいしか、エレナと時間が合わない。
互いに浮気をするようなタイプではないとわかってはいるが、結婚前とあまり変わらない生活が今の悩みの種だ。
エレナを嫁にした以上、それは承知の上だったはずだが、ひとは贅沢になるのだ。
「なぁ、アレックス・・・相談なんだが」
そう親友から言われれば、アレックスも真面目に答える用意がある。
「エレナは何時まで、ファイヤー亭の仕事やるつもりなんだろうな」
アレックスも、それは気にしていた。
だが、エレナ本人がやりたがっているのだから、それを遮る理由もない。
何よりオルチェを除けば、一番、仕事も頼りになる。
「さてね、俺はエレナが辞めたいと言えば、何時でも構わないけれど」
「あの子は、自分から言わないだろうし、まだ、恩を返せてないと思い込んでる節がある」
「俺達がどれだけ言った所で、本人が続けたいなら、気長に待つしかないだろ」
「目の届かない所にいるわけでもないし、あの子はしっかりしてる」
「何時か、自分で切り出すさ」
アレックスはエドワードの肩を軽く小突く。
「そうだな・・・あの義理堅さは美徳だ」
「俺の我儘より、ずっと価値のある」
「なんにも言えねえよなぁ」
安息日の昼間、男二人だけの貴重な時間。
ライス・ワインをちびちびと、冷蔵庫の残り物をつまみに盃を傾ける。
「お前らは子供作らねえのか?」
「ウチもなかなか出来ないけどさ」
と、アレックスが言えば、
「そればっかりは授かりものだから、無理はさせないよ」
「エレナは少しばかり、男性不信の所があるんだ」
「俺やお前は平気だと本人は言ってるが、やはり、あまり夜のことは好きじゃないみたいでね」
優しい眼差しでエドワードが答えた。
「全部が全部は、ままならんさ」
「それを叶えるには、俺達は少しばかり年を取った」
「冒険者やってた頃みたいに、何時までもガキじゃいられない」
「それがわかったから、こうして昼間から美味い酒も飲める」
こつん、と、アレックスがエドワードのグラスに自分のグラスを当てる。
エドワードが一息にそれを飲み干して、
「ああ、俺は自分たちが恵まれていることもちゃんとわかってるよ」
「皆が皆、こうやって平穏に暮らせるわけじゃない」
「これだけでも周りの連中には感謝だよな」
今度はアレックスが酒を一息で煽り、
「そういうことさ」
「今しか味わえない気分だってあるぜ?」
「付き合いが長くなれば、愛してるが、全部、ありがとう、に、なっちまう」
「そういうものだけでも大事にしなくちゃな」
オルチェとエレナが買い物から戻り、ファイヤー亭の入り口を開ける。
「また、昼間から酒盛りかい」
「悪かないけど、つまみも食べて、飲みすぎは控えておくれよ」
「この年で未亡人なんて御免だからね?」
と、オルチェが言えば、エレナも、
「そうですよ、エドさん」
「さぁ、家に帰りましょう」
「シャアリィさん達に料理の本をもらったんです」
「すごく手間が掛かるのを作るから手伝って下さいね?」
照れ臭そうに頭を掻いて、エドワードが立ち上がる。
「それ、俺が持つよ」
「重いだろう?」
と、仲良く帰路を並んで歩いた。
シャアリィとアイシャの贈り物は、お手製の旧世界の料理の写本。
その価値はプライスレス。




