ぶらり街歩き・後編
雑貨を見ながら、シャアリィがオルチェに耳打ちする。
「ナッチェって何が一番欲しいのかな?」
「それか、ナッチェに必要なもの?」
「成人式、何もしてないからさ」
オルチェは顎に手を当てて考える。
「服は結構持ってるし、あの子物持ちいいんだよ」
「それこそ、歌劇のチケットくらいかね?」
「アタシが思いつくのは」
シャアリィが、じゃあ、それにしよう、と言い、
「オルチェとアレックスの分も用意するから、連れていってあげて?」
ナッチェへの贈り物が決まった。
チケットは商業ギルドでも取り扱っている。
この街の歌劇場は些か高級仕様、ドレスコードもある。
当然、チケットを買い求めるのは富裕層。
さて、ナッチェが選ぶ演目は・・・
商業ギルドに着き、アイシャは届いている自宅の鍵を受け取った。
シャアリィは、ナッチェ、オルチェと一緒に歌劇の演目を選んでいる。
『歌姫の恋』、『許されざる結婚』、『永遠に続く償い』、『勝利と失恋』
ナッチェはあれこれと想像しながら、チケット販売担当にどれが良いか尋ねる。
「家族で見るものだと、どれがいいですか?」
家族・・・オルチェはその言葉で目が潤むが、それを瞬きで堰き止める。
「それなら、『歌姫の恋』が、お勧めですよ」
「ほのぼのとしていて楽しいお話だそうです」
シャアリィが、
「じゃあ、それを三枚・・・特等席、飲食付きで」
「代金は私の口座から引き落としでお願いします」
と、冒険者章を提示する。
「畏まりました、観覧後の夕食席でよろしいですか?」
オルチェがそれに応じる。
「それでいいよ」
・・・
チケット販売担当に見送られ、四人は本日の最終目的地に向かう。
「シャアリィさん、ありがとうございます」
「とても、楽しみです」
と、言えば、シャアリィはナッチェに、
「アイシャにも言ってあげて?」
「これは私だけのお金じゃないからね」
ナッチェはくるりとアイシャに向かって、同じように礼を言う。
アイシャは、ナッチェの頭を撫でて、
「プレゼント遅くなってごめんね」
「もう、向こうじゃドタバタでさ」
と、頭を掻く。
見えてきたレンガと漆喰の綺麗な三階建ての邸宅。
アイシャが鍵を取り出して、
「中も見れるよ?」
それを見せながら言うと、オルチェが、
「おいおい、他所様の出来上がったばかりのお宅に入っちゃダメさね」
「ここから眺めるだけでいいよ」
シャアリィとアイシャがくすっと笑って、
「「いいんだよ」」
と、満面の笑顔で種明かしをする。
「だって、ここ、私達の家なんだもの」
オルチェとナッチェは口をぱくぱくさせた後、二人の悪戯に気付く。
「また、やられた・・・今度は半年掛かりの仕込み」
「ほんとにあんたたちは・・・」
ナッチェはまだ完全には飲み込めておらず、
「本当に?本当にお二人のお家なんですか?」
と、言うので、アイシャが鍵を渡して、
「一番乗りをプレゼントしよう」
「私達の家にようこそ、ナッチェ」
「まだ、家具も何にもないけれどね」
「私達はまた、長い間、留守にするから、ナッチェに鍵を預けておくよ」
「旅の最中に無くすと大変だからね?」
ナッチェは、両手で鍵を受け取ると、それをじっと見つめて、
「任されました、憂いのない旅を!」
と、真新しい扉の鍵を回し、最初の一歩を踏み入れた。
レリットランスの日没は、少しづつ遅くなってきた。
もうすぐ春が来る。




