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氷結のシャアリィ  作者: 黒猫テラス運営部
大商人街道編
443/513

幸せの具現化

翌日、職人ギルド。

完成間近のキャラバン車両の視察に出掛けた、アイシャとシャアリィ。


「ふわー、すっごいねぇ」


シャアリィが漏らした声の通り、実に素晴らしい車両と御者台。

職人が自慢げに披露する一つの部品と、小さなキャラバンの模型。


「こいつは、傘歯車っていう面白い部品なんだ」

「古い文献を調べていたら載っていたんで作ってみたら、実にすごい」

「どんなふうにすごいかって言うと」


テーブルの上で職人が車体の模型を手で押す。


「右に曲がる時、右側の速度を遅くして、左側の速度を早くする」

「そうすると真っすぐ走るように作られている車両の内側車軸にはとんでもない負荷が掛かるから、たまに車輪が外れちまう」

「そういう負荷を軽減する仕組みが、この傘歯車だよ」

「他にも・・・」


アイシャが手でストップを掛ける。


「専門的なことは任せるよ」

「見た目から仕組みまですごい、そういうことだろう?」

「流石はレリットランスが誇る職人ギルドだけのことはあるね」


実際、中身は見た目以上にすごい。

スプリングを利かせ、重量物にも耐える貨物車両。

御者台の前方に取り付けられた自動装填式の弩弓は、盗賊対策。

旅客車両のように、天井付き、魔石冷暖房完備の客車。

それらを実現したのは、加工は難しく高価だが、丈夫で軽い複合金属素材。


戦で使う戦闘車両にも匹敵する頑強さ、その上で軽さを両立する等、他の街の職人ギルドでは恐らく制作出来ないだろう。

そして、グリーンノウズ、ウィトプラナ、レリットランス、三つの領地の領主紋が施された貨物車両を見れば、相当の間抜けでもない限り、このキャラバンを襲うことはあるまい。

見落として襲ってしまったならば、領主軍を敵に回すことになり、賞金首になる前に命を落とすことになる。


自分たちの描いた大きな事業が、こうして目に見える形になってくると現実感がぐっと身近になる。

シャアリィとアイシャは、気前良く職人たちにチョコレートを振舞った。


・・・


そして、完成まであと一月程のマイホーム。

レンガと漆喰で整えられた外観に、シャアリィもアイシャも感嘆の溜息を漏らす。


「これ、本当に私達の家だよね?」


思わず涙ぐむシャアリィの頭を撫でながら、アイシャも少し声を震わせて答える。


「ああ、本当に私達のものだ・・・ちゃんと暮らせるには、もう少しばかり先になるが、とうとう、私達も流浪の民から脱出だよ」


同世代の他の者たちが楽しい青春を謳歌している中、命懸けの戦いに明け暮れた対価なのだから満足感も格別だ。


「でも、まだみんなには内緒だよ?」

「とびっきりのサプライズでお披露目するんだ」

「一階は、生活魔具の販売拠点にしよう」


衛兵通りは、領主府通りに次ぐ一等地。

そこに自宅を持つということは、憧れの的。

勿論、シャアリィとアイシャは、それ以前から、この街の英雄として親しまれているのだが。


出費につぐ出費。

でも、ただの無駄遣いはなく、いずれ何倍にもなって戻って来る投資や貸付。

自分たちが大商人への道を歩み始めたことを、実感する。


「あとは領主さんへの挨拶と、冒険者ギルドかな」

「それとエドワードの所にも」


アイシャがそう言うと、シャアリィが、


「ザックの所もだよ」


と、廻る所が増える。


アイシャがシャアリィの手を取って二人は僅かに雪の残る道を領主府に向けて歩き出す。

この数か月の報告をすれば、アネモイは多分、又、驚くことだろう。


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