パレスの主
約束の時間、シャアリィとアイシャは支配人に案内され、豪奢な絨毯の布かれた螺旋階段を登る。
そこにあるのは、レストラン、バー、カフェテラス、リフレッシュ・カウンター。
広々としたレストランの窓際の席に、レオパルドはフルートグラスを傾けていた。
シャアリィとアイシャの来訪に気付くと、自ら席を立ち、二人をテーブルに案内した。
驚くことに、二人が掛ける椅子を引き、紳士らしく着席を手伝った。
「初めまして、ドラゴン・スレイヤー殿」
「当カジノのオーナー、エルドリッチ・レオパルドです」
自己紹介を受ければ、二人も名乗りを上げる。
「白銀こと、アイシャ・セロニアスです」
アイシャの自己紹介に倣い、
「琥珀こと、シャアリィ・スノウです」
二人の前に置かれたフルートグラスに、冷えたスパークリングワインをレオパルド自らが注ぐ。
「まずは出会いを祝して、乾杯しましょう」
三人はグラスを手に持ち、少し高く掲げる。
どうやら、レオパルドは機嫌が良いらしい。
「さて、ご来訪の理由を、と、言いたい所ですが、折角ですので食事にお付き合い下さい」
「旅慣れたお二人のお口に合えば良いのですが」
テーブルに運ばれてくる見事な料理。
そのどれもが一流の素材、調理によって供されたものであることは間違いない。
レオパルドは気品に満ちた上品な仕草で、食事を楽しむ。
そして、デザートの小さなチョコケーキまでを食べ終えて、
「ふぅ、腹も満たされたことですし、本題に入りましょう」
「私との突然の面会、恐らくはビジネスの話ですね?」
「それも、すこぶる金の掛かる」
アイシャは、優雅に答える。
「流石はパレスの主」
「投資の依頼で間違いありません」
シャアリィは笑顔で華を添える役に徹する。
「我々と共に海運商会を開業して頂きたく、お願いにあがりました」
「目下、セブール商会は領主府、衛兵監督所、教会から厳しい追及に晒されています」
「早晩、この街から撤退することになるでしょう」
レオパルドの藍色の瞳が、輝く。
「私に、その穴を埋めよ、と、いう訳ですね?」
「成程、最初に金は掛かるが、とても良い話です」
「お二人の後ろ盾は、フランシスコ枢機卿・・・ですね」
「彼の鮮やかな粛清劇は、悪人共には脅威でしょうな」
「私はカジノ・オーナー、治安の敵とは思わないのですか?」
アイシャは正直に答える。
「カジノ・ビジネスは、正直、好ましいものではありません」
「ですが、ここで負ける人間は、己の欲に負けるのです」
「オーナーが治安を乱しているわけではありません」
成程、と、レオパルドは楽し気に微笑む。
「私の所に金が留まれば汚れたままだが、事業に投資すれば綺麗な金になる」
「何時かは私も社会貢献をしなければ、と、思っていました」
「そして、その話を幼い頃憧れた冒険者が持ってきてくれた」
「粋な巡り合わせですね」
アイシャも微笑み、それに頷く。
「私達にも目的があります」
「それはエンダーベルトとのビジネスに必要な海上流通を手にいれること」
「運ぶ品は、生活魔具」
「それをアーシアン全土に広めます」
「そのためにグリーンノウズの治安を回復することに協力し、オーナーの助力を請いに来ました」
「最終的には、技術移転まで漕ぎ着けたい所ですが、エンダーベルトの利益も損ないたくはありません」
「皆が利益を分かち合い、その上で連合国全体の生活の質が向上する」
「そういう関係を築ければ、と、思っています」
レオパルドは、小さな拍手。
「良いでしょう」
「しかし、これから船を作っていては計画が遅れます」
「手頃な海運会社を買収しましょう」
「そうすれば、船付き、現状の契約付き、さらには船長、船員まで付いてくる」
「少々、高くつきますが、それが一番、無難かと」
さすがは一流のビジネス・オーナー。




