グリーンノウズの新年
教会には基本的に休日はない。
年末年始だろうとヒトは亡くなり、揉め事の仲裁などの雑用から、年始行事のような儀式まで、常に仕事があるのだから。
西方大教会の長である、枢機卿ジョルジアット・フランシスコも例外ではない。
特に重要な式典は、枢機卿なしでは始まらない。
「では、行ってくるよ」
と、午後から出掛ける先は、西方大教会本部。
今日は大晦日、大鐘楼の打鐘行事がある。
レリットランス程寒くなくとも、気温は十度。
十分に冷える風の中、迎えに来た教会馬車に揺られて五分程。
「さて、本日の打鐘、担当者は準備出来ているか?」
「日没時間は概ね、午後五時」
「それが打鐘の開始時刻」
「今年は五百三十七年だから、五回打鐘、一分休み、三回打鐘、一分休み、七回打鐘」
「年末の打鐘は、この回数」
「翌日の新年の打鐘は、午前六時五十分」
「勿論、来年の五百三十八年を示す、五回、三回、八回」
「私は執務室で両方の鐘が終わるまで待機する」
「様々な判断は現場に任せるが、指示が必要な時は遠慮なく来るように」
粛清の嵐で、二割程減った教会職員。
新年度の採用は、それを上回る数を採用する予定だ。
今の現状、多少の人手不足はあるが、それでも業務に支障はない。
残業が増えても、それに伴って手当が支給されるのだから、職員に不満はない。
それでも、フランコが手本とならねば、すぐに風紀は乱れるだろう。
「勤務交代の時間になったら、皆、食堂に行くといい」
「年末の特別食が用意してある」
「家族を待たせている者は、持ち帰っても構わないぞ」
「夜勤の者は、申し訳ないが休憩の際にでも食べてくれ」
「勤務が終わるまでは酒は我慢」
「清く、正しく、美しく、だよ」
職員の返事と拍手を背に、フランコは執務室に入る。
今年、遣り残したことは残念ながら少なくない。
特に魔道動力キャラバンについては、その下地作りも終わっていない。
だが、やり遂げたことも多い。
一番の収穫は、治安回復への第一歩を踏み出したこと。
アレクサンドルの排除と教皇とのコネクション。
レリットランスとの同盟とシャアリィとアイシャの助力。
治安対策委員会の設置。
領主府との連携。
セブール商会の弱体化。
多分、この仕事に終わりなどない。
来年は、少しばかり駒を先に進めよう。
フランコの年越しは、一人きりの執務室。
それでも、今までで一番充実した年越しだと自身は感じていた。
・・・
「フランコの戻りって何時だっけ?」
と、アイシャがシャアリィに聞けば、
「明日の日の出の打鐘が終わってからだって言ってた」
「多分、帰ってきたらバタンキューだから、夜、何か作り置きしよう」
ソファで寛ぐ二人。
「二人だけだとお菓子とか、適当に食べればいいから楽だよね」
「でも、居候の身だから、食事ぐらいはちゃんと作らないと」
「あれ、むしろ協力しているんだから、もっと贅沢しても?」
笑いながら、きままな年越し。
「今年もいろいろあったねぇ」
「そう言えば、私達の家、来年二月末には完成らしいよ?」
「商業ギルドに伝言があった」
アイシャが思い出して、シャアリィに報告する。
「アイシャの二十才の誕生日と同じ時期かぁ」
そこでアイシャは気付く。
「シャアリィの誕生祝い・・・してなかったね・・・ごめん」
シャアリィは、全く気にしていない。
「じゃあ、全部一緒にやればいいよ」
「ついでにエレナ達にもう一度結婚式みたいなのやってもらったり、ナッチェのお祝いしたり」
「そういや、アレックス夫妻とか、フランコの誕生日って何時なんだろうね?」
「今度、聞いてみよう」
年中お祝いになりそうだ、と、二人は笑った。




