フランコ邸の年末
生活魔具と、魔石家具の違いは素人には余りよくわからない。
中身は何から何まで違うのかもしれないが、一言で言えば効率が違う。
そして、魔力が使えなければ魔石家具は使えない。
魔石からのエネルギーのオンオフの切り替えしか出来ないのも、魔石家具の不利な所だ。
だから、冷蔵庫や冷凍庫、冬の暖炉で火の魔石を使う程度であれば問題ないのだが、生活魔具は魔力も必要なく、エネルギーの調整も出来る。
・・・
今日、シャアリィが買い込んできたのは、『うなぎ炙りセット』だ。
年越しの買い物で込み合う年末の商店で、少しばかり高値となっている商品の数々。
どうせ何処にも出掛けないだろうと決め込んで、連日、大量の食材と酒を買い込んだ。
最早、冷蔵庫も、冷凍庫も悲鳴が聞こえてくる程に詰め込まれている。
「フランコは実家に戻らないの?」
と、シャアリィが興味深いことを尋ねると、フランコは素気ない返事。
「ああ、うちは家族仲があまり良くなくてね」
「実家は、ここからでも見えるよ」
「帰る気はまったくないけれどね」
アイシャも同じようなものなので、フランコの気持ちはわからなくもない。
家督がどうの、跡取りがどうの、年寄たちの話は何処でも同じ。
そして、ずっと子供扱い。
帰っても面白いことはない。
そう考えればジョンソンという男は随分と優しいのだろう。
小高い丘の上の大邸宅・・・それがフランシスコ家。
この時世に貴族でもないのに使用人までいる、と、ジョンソンから聞いた。
だから、『坊ちゃん』なのである。
シャアリィは幼い頃に両親を亡くしているが、他人の家庭の事情には口を挟まない。
何度か寂しいと思ったことはあるが、もっと切実な問題が常にあった。
空腹、貧困、無力。
孤児となり、それに慣れてしまえば、寂しさなどどうでもいい。
寂しさではひとは死なないが、空腹、貧困、無力は命を奪う。
だから、様々なことに鈍感になるのも仕方のないこと。
三人は、それぞれ育ちは違うけれど、こうして気があうのは不思議なものだ。
「今日は久々のうなぎなのさ」
「なんと、捌き方を教えてもらいました」
「これでいつでも作れます!」
自慢げにシャアリィが小さめの包丁と、捌いたうなぎを見せる。
「それは凄いな」
「じゃあ、うなぎスレイヤー殿、宜しく頼むよ」
フランコの冗談に、アイシャが噴き出す。
「うなぎスレイヤーって、どうなの」
「私からは『うな斬りシャアリィ』の二つ名をあげるよ」
シャアリィはまんざらでもなさそうに、
「二つ名は幾つあってもいいね」
「てゆか、アイシャはライス炊いて、フランコは、えーと、応援でいいや」
フランコはライスワインを片手に、賛美歌を歌う。
その歌声は妙に心地良く、シャアリィとアイシャの耳朶をくすぐった。
知らぬまにシャアリィもアイシャも鼻歌を口ずさむ。
今頃、遠いレリットランスの街でも、皆、ファイヤー亭に集まって宴をしているだろうか。
そんなことを考える程に、シャアリィとアイシャは、レリットランスという街が好きだ。




