希望がなくちゃね?
十月。
粛清リストの約半数が一ヶ月程で片付いたものの、治安がどれだけ良くなったかと言えば、目に見えてはわからない。
軽微な犯罪は横行し、未だに殺人も起きている。
まるで骸に群がる蛆のように、グリーンノウズの悪人たちは次から次へと湧いてくる。
アイシャは一つの答えを見つける。
それは都市特有の無関心。
犯罪の数に対して、通報の数があまりにも少ない。
誰もが見て見ぬふりを決め込んでいるのだ。
それはこの土地の自営手段なのだろう。
皆が損得勘定の上でしか生きられない。
徒労・・・そんなことが頭に過る。
自分でさえ心が擦り減っているのだから、改革の中心にいるフランコは恐らく相当だろう。
この状況を打破するには、大きな原動力が必要だ。
「希望がなくちゃね?」
と、シャアリィが言う。
グリーンノウズの街の人々に希望を与えるものとは、何だろうか?
「歌劇場を作ろう!」
「そして、子供たちを招待するんだ」
「冒険の物語がいい」
それはただの思い付き。
そんなことで変わるならば苦労はしないとフランコは言うだろう。
それでも何故か、アイシャの心には響いた。
「希望を私達が示そう」
「ドラゴン・スレイヤーの物語だ」
・・・
たった二週間の突貫工事、屋根さえなく、そこにあるのは客席と舞台だけ。
それでも娯楽に飢えた人々が列を為して押し寄せた。
観覧料はひとり銅貨二十枚。
役者の給料が出せる最低限の収入。
安息日だけの公演。
劇の出来はお世辞にも良いとは言えなかったが、それでも、子供たちからは歓声が上がった。
これから一ヶ月毎に物語が追加されてゆく。
雨の日だけは残念ながら公演中止。
興味深いことは、犯罪抑制に兆しが見え始めたことだ。
親子の時間、近所との付き合いが増え、コミュニティが形成された成果だろう。
悪いことは恥ずかしいこと、子供がそう口にすれば大人は手本になる。
無関心だったことにも、自然と目が行き届き、軽犯罪は激減した。
無償で公演の手伝いをしてくれる支援者も増えた。
「まるで魔法のようだ」
と、フランコは言う。
シャアリィとアイシャは答える。
「そうだよ、私達の術式さ」
「希望という名の魔法」
「清く、正しく、美しくなんだろう?」
怒涛のように過ぎる日々、もうすぐ今年も終わりを告げる。
心残りはエレナの結婚式も、ナッチェの成人式も見逃してしまったこと。
時折来る手紙には、何時も、
『元気でいて下さい』の文字。
少しばかりのせつなさ。
フランコ、シャアリィ、アイシャは、久しぶりの纏まった休暇を宴で埋め、忙殺された数か月を振り返った。




