セブール商会の反撃
その日、小麦の卸売りが停止した。
表向きの理由は、輸出国からの買い付け不良。
だが、それは明らかにセブール商会の反撃だ。
主力船団支配人を処刑台に送った教会に対する報復として選んだのは、現状、セブール商会が海上輸入の半分を占める小麦を絶つという暴挙。
一日にして小麦の価格は四割上昇。
次の日には、在庫を奪い合うように商人たちが動き、さらに四割上昇。
これでは冬を越える備蓄が出来なくなる。
「やってくれたな」
と、フランコは唇を噛む。
今から取れる手段は、ウィトプラナとの交渉しかない。
海の向こうのセブール商会本拠地は治外法権。
現地に乗り込んで締め上げる訳にもいかない。
厄介なことにセブール商会は、今回の小麦騒動に関しては一切法に触れていない。
これは十分な小麦の備蓄を持っていなかった領主府と商業ギルドの落ち度だ。
市場の原理、需要と供給を利用した攻撃には打つ手はない。
「セブール商会の倉庫に査察をかけろ」
「在庫数を徹底的に調べ上げるんだ」
治安対策委員会が倉庫に踏み込めば、そこには高々と積まれた小麦の山。
新しく主力船団支配人として、グリーンノウズに来た男は、イエルシュ・ローバー。
「治安対策委員会だ」
「ローバー支配人、何故、在庫があるのに市場に出さない?」
と、治対捜査官アルジェ・フロレンスが問えば、ローバーが答える。
「売る、売らないは商人の自由」
「本社からの売り指示は出ていませんのでね」
「ああ、虫を涌かせたら勿体ないのに、本社は何を考えているのでしょうね」
「私も支配人として危惧しておりますよ」
あくまで本社の意向だと、シラを切る。
フロレンスも黙ってはいない。
「では、この品々は犯罪捜査の証拠物として差し押さえても?」
「容疑は当然、不当価格操作」
「それが明らかになるまで、商品の売却は出来ない」
ローバーは、少しばかり顔を曇らせたが、
「どうぞ、ご自由に」
「当社が無罪認定された暁には、当然、損害賠償請求を致します」
「これだけの品を押さえ、売り時を逃せば、相当な額になると思いますよ?」
フロレンスが反論する。
「本社からの売却指示がない、のではなかったのか?」
「本社との最短期間での連絡を要請する」
「差し押さえは、その日までと訂正しよう」
「そして、逐一、連絡を要請し、指示がなければ、その都度差し押さえを延長しよう」
喰らい付いたら離さない。
「次に同じようなことがあれば、意図的な価格操作として立件する」
「せいぜい一度限りの儲けを漁るがいい」
フロレンスの機転により、被害は最小限に抑えられたが、相手はクラーケンとも呼ばれる大海運商会。
まんまと一定の成果を上げて、その市場支配力を見せつけた。
今回の一件で、セブール商会をグリーンノウズから排除する機運が高まった。
だが、それと同時にフランコを批判する声も、少なからずあった。
領主府議会では『市場原理法』が制定され、ひとつの分野で一定量以上の商品を扱う者には、供給量の制限による価格高騰を防ぐことが義務付けられた。
穴だらけの法を改定することも、また、治安維持に必要なことだとフランコは思い知らされた。




