新しい三強
領主府と衛兵監督所に宛てた手紙の返答が届いた。
送った手紙の内容は、
『治安回復と経済発展のための構想』
即ち、教会、領主府、衛兵監督所の三位一体の犯罪撲滅。
そもそも現状、衛兵監督所の人手が足りな過ぎる。
それを補うために、領主府が新たな部署を設立し、人材を雇用する。
その資金の出所。
それはシャアリィとアイシャの迷宮踏破年金の中期貸付。
治安が回復するまでの一定期間、無利子の資金を投入する。
セブール商会が吸い上げていた不当な利益が市場に還元されれば、税として領主府に入ってくるのだから、問題はない。
新設される部署は、『治安対策委員会』。
その初代委員長にブラットン・ジョンソンを任命する。
冒険者ギルドの新たなギルド・マスターは教会が派遣。
元々、教会のために存在するような冒険者ギルドだけに、帳尻を合わせるのは教会の義務だ。
そして、領主、衛兵監督所、双方が治安対策委員会の新設に同意した。
・・・
フランコ、シャアリィ、アイシャは揃って冒険者ギルドに向かう。
開け放たれたドアの向こうで、真面目に書類整理をしているアイリーンに声を掛ける。
「やぁ、アイリーン、ジョンソンはいるかい?」
アイリーンに呼ばれるまでもなく、奥の部屋から出てくるジョンソン。
トレードマークだったドレッド・ヘアは、スマートなオールバックに変貌していた。
「よう、坊ちゃん、首を長くして待ってたぜ」
「三人揃って来たってことは、いい話なんだろう?」
フランコは笑いながら応じる。
「ああ、勿論」
「きみを治安対策委員会の初代委員長に任命しに来た」
「後任の人選は、週末には完了するよ」
ジョンソンとフランコの右の掌が打ち鳴らされ一際良い音を立てる。
「一つ、いいかな?」
「私を坊ちゃんと呼ぶのは、身内だけの時にしてくれ」
「これでも枢機卿なんだ、面子というものがある」
ジョンソンはにやりと笑い、
「わかってるさ」
「俺も来週からは、『立場ある身』なんだから、気を付けるよ」
「俺達の関係が癒着と取られれば、信用に瑕が付く」
「紳士として振舞う、無頼漢は卒業だ」
さて、と、前置きして、
「治安対策委員会、通称『治対』には、非常に強い捜査権限を与える」
「今までならば、逐一必要だった教会令状を手帳一つで代用出来る」
「言わば『教会を持ち歩く衛兵隊』だ」
「それが何を意味するかと言えば、当然、賄賂や癒着の危険性だ」
「一番難しい仕事は、罪人を捕えるよりも、部下の管理」
「人は欲に簡単に溺れるだろう?」
フランコの言葉にジョンソンは頷く。
「ああ、間違いない」
「金や女の誘惑は心の隙間にするっと入ってきやがる」
「部下たちには治安の番人たる覚悟と矜持をしっかり叩き込むさ」
フランコは笑う。
「それでいい」
「しかし、俺たちのような生臭い奴が、今や正義の守護者だ」
「過去の行いは一切問わないが、自分自身の心に嘘はつけない」
「そこで領主に一枚の紙っぺらを用意してもらった」
『免責承諾書』
「我々の過去に関して、一切言及しないというお墨付き」
「とんだペテンだが、あるのとないのでは訳が違う」
「『お前だって悪党だろうが』等と、ほざかれて怯んでいては話にならん」
ジョンソンは頭を掻きながら、
「何処までも抜け目がない男だな」
「恐れ入るよ」
と、フランコを見やる。
「ああ、以前に痛い目を見たんでね」
「教訓として染みついたのさ」
フランコは、『廃棄の王』との戦いを忘れてはいない。
同じ轍は踏まないと、自身の心に誓ったのだ。




