粛清枢機卿
日を置くこともなく、ビル・ジョビンスは処刑され、その亡骸は落日の教会に葬られた。
悪党には墓標など必要ない、と、いうメッセージを込めて。
真新しく掘られた土の跡だけがビル・ジョビンスという男の生きた痕跡となり、それは一雨過ぎれば消えてしまうだろう。
それを手土産にフランコの教会での粛清劇が幕を開ける。
最初の標的は、フランコと大司教の座を争っていた、ヒルマン・セドリック司教。
まずは、邸宅に届けられた贈り物の返品から始まる。
十五人もの司教のうち、半分以上にあたる八人がフランコの枢機卿就任の贈り物を邸宅に届けていたが、その中でも飛び切り高価な宝石を送りつけてきたのがセドリックだ。
賄賂以外、何と判断すべきかわからないような品物だけに、話は早い。
「セドリック司教、午後一番で枢機卿執務室に来てもらいたいのだが」
そう声を掛ければ、何を勘違いしたのか喜びの声色で返答した。
「了解致しました、時間通りにお伺い致します」
・・・
枢機卿執務に丁寧なノックの音が二度、響く。
フランコは自ら扉を開けて、セドリックを招き入れた。
「ご足労掛けて済まないね」
「遠慮なく、掛けてもらいたい」
と、フランコに着席を促されれば、セドリックは、
「失礼します」
と、頭を下げてソファに着席する。
「さて、早速だが、きみからの贈り物、これはお返ししよう」
「こんな高価なモノを貰う理由はないし、聖職者が身に着けて良いものでもない」
「どういう意図で、これを送ってきたのかな?」
セドリックは自身の贈答が失敗だと、初めて気付く。
「いえ・・・先代の枢機卿は、こういうものを好んでおりましたので」
「慣例的に選び、贈り物にしましたが、お気に障りましたでしょうか?」
フランコは呆れる。
「率直に言う」
「きみは司教として不適格だ」
「修道士からやり直すか、教会を去り給え」
「きみは自分の行為が贈賄だとわかっていないな?」
「私が衛兵所に突き出せば、きみは職を失った挙句、拘禁刑」
「だが、悪意はないと判断して、こうして温情を掛けている」
「わかるか?」
セドリックは顔を青くするが、もう遅い。
「明日、きみの選択を聞こう」
「帰り給え」
重い足取りで扉を開ければ、そこには次の粛清対象者が待っていた。
その後、六度、同じような遣り取りが繰り返される。
ささやかな花束、祝いの手紙、そういうもの以外は全て返品され、司教であれば位階の剥奪、司祭であれば、謹慎か減給、修道士には厳重注意。
面倒な仕事を五日掛けて片付けた。
これはまだ序の口。
教会内部には、もっと酷い手合いが残っている。
寄付の過小申告から、教会の名を使った恐喝、脅迫まで。
それらを一掃して、初めて健全な教会となるのだ。
自分の罪を自覚している者であれば、粛清劇の噂を耳にすれば自ら名乗り出ると思っていたが、やはりここはグリーンノウズ。
それは期待するだけ無駄だった。
枯草が燃え広がるように、その相手は教会騎士団や迷宮管理者にも及んだ。
一度に燃やし尽くせば、教会の運営に支障が出ると、何人かの司教が止めに入ったが、その程度で止まるフランコではない。
「私の改革を遮る者は容赦しない」
「人が足りなければ、あらたに雇用、或いは近隣の教会から招けばいい」
「グリーンノウズの教会のやり方は変えなければならない」
何時しかひとはフランコのことを、
『粛清枢機卿』
と、呼ぶようになった。




