粛清リスト
フランコの手元にあるのは、三冊の白いファイル。
それは『粛清リスト』。
アーシアンからの去り際に、ワイズリートから手渡された貴重な文書。
裏表紙には教皇印が押され、署名まである。
最初に手を付けるべきは、自分の足元、教会。
しかし、それに先んじてやることが出来てしまった。
三冊の白いファイル、そのうちの一冊の最上段に書かれた名前。
セブール商会主力船団支配人、ビル・ジョビンス。
その裁判が今日、行われることを掴んだ。
このままの状態で裁判に突入すれば、あらゆる方面に金をバラ撒いているセブール商会の幹部に厳罰を突き付けることは難しい。
裁判官、証人、被害者には金だけでなく脅しもしているだろう。
誰も口を割らない裁判では巨悪を又、野放しにしてしまう。
今でさえ、罪状から考えればあり得ない保釈申請が罷り通っているのだ。
午前十時。
フランコはシャアリィとアイシャを伴い、領主府の裁判所に向かう。
「教会として、証拠書類と意見陳述の許可を願います」
本来はお願いなど必要ない、が、フランコは裁判官とセブールの癒着も疑っている。
拒絶の素振りを見せたならば、裁判官も新たな調査対象だ。
幸いにして、フランコの申請はすぐに認められた。
「本日午後三時より、開廷しますので、お時間までに準備室においで下さい」
・・・
フランコは枢機卿になっても飄々としている。
赤い詰襟が気にいらない、と、普段は普通の聖衣を着ている。
ホットドッグスタンドで、少女二人とパンを齧っていても、誰も見向きもしない。
「そういやぁ、ワイズリート卿・・・否、教皇と酒宴の約束したんだっけ」
「近々、アーシアンに付き合ってくれないか?」
等と呑気にお喋り。
緊張感がないのは、シャアリィも同じ。
「いいね!リーシャも来るんでしょ?」
「今度は酒盛りで勝負だ!」
と、言えばアイシャが笑いながら、
「多分、勝てないと思うよ・・・私達は先祖譲りのアルコール耐性がある」
道理で何時も先に酔い潰れるわけだと、シャアリィは納得した。
・・・
午後三時数分前。
法廷に隣接する準備室で三人は待機する。
今回の出廷は飛び入り、セブールの弁護人にも、ジョビンスにも知らされてはいない。
顔触れを見れば、あの饅頭面は汗まみれになることだろう。
ガベルを打ち鳴らす音が三時を告げ、裁判官が出廷を促す。
「被告人ビル・ジョビンス」
手錠もなしに、弁護人を伴って、セブール商会主力船団支配人が出廷。
衛兵監督署の立件士が、容疑と求刑を読み上げる。
「被告は、強盗、殺人、傷害、贈収賄、誘拐、人身売買、禁制品取引、ありとあらゆる犯罪に教唆、幇助として関わり、治安を著しく乱した罪により死罪を求めるものとします」
極刑を求められても、ジョビンスは狼狽えない。
「弁護人から反論を」
そう言って立ち上がった男の目にはモノクル、神経質そうな痩せぎすの弁護人。
「端的に言えば、教唆、幇助の証拠は曖昧で確定したものはありません」
「状況証拠や利害関係人による証言の数々は、妄言であるとしか言いようがありません」
苛立つのは、勇気を振り絞って告発した数人の証言者と立件士。
教唆や幇助を認定するためには、それをジョビンスから請け負った証人が必要だ。
セブール側の関係者は悉く謎の失踪や不可解な自死を遂げている。
証拠隠滅には随分と自信があるらしい。
「追加の意見陳述と証拠が教会より示されました」
「陳述者、ジョルジアット・フランシスコ枢機卿、出廷」
その名前で空気が変わる。
ジョビンスは苦々しく、フランコを睨む。




