閑話:西方同盟の顛末
フリードリヒ以外の面々には、アレクサンドルが辿る末路が分かっていた。
最年少枢機卿、その権力闘争に勝つには、やはり多額の資金と根回しが必要だったのだ。
その資金の主な出所は、クラーケンこと、セブール海運商会。
勿論、その他にも数多の収賄が確認されていた。
五百件以上もの収賄、教会資産の私的運用、犯罪の教唆と幇助。
巧みな隠蔽工作、それだけ揃えば通常の領主府裁判では死罪或いは奴隷落ち。
そのような者が教皇になったならば、教会の面子は丸潰れ。
表沙汰に出来ない以上、教皇庁が下す決定は、終身幽閉或いは極秘処刑。
アレクサンドルが日の下で自由になることは、ない。
教会にとって幸いなのは、ワイズリートによって、未然にアレクサンドルの戴冠が防がれたことだ。
もし、一度でも教皇の椅子に座らせていたならば、もう一度、カルテリアルから教皇選抜をやり直さなければならず、教皇庁が被る損害は甚大。
教皇庁規定の次席就任を利用したアレクサンドル追放劇は、見事の一言に尽きる。
ワイズリートの調査の発端は、『廃棄の王』の魔石。
情報収集を秘密裏に始めてみれば、あまりの余罪の多さに辟易した。
そして妙手は、第二回投票。
予め、北方と東方の選抜続行を根絶やしにし、アレクサンドルだけを引き摺り出した。
ワイズリートの後任には、教皇庁大司教プラトン・アーネストが選ばれた。
実は今回の追放劇の影の立役者である。
スケジュール調整から、教皇庁規定に至るまで、ワイズリートに知恵を貸した。
・・・
教会関係者でないアネモイには、重要犯罪捜査協力の報酬として金貨五百枚が贈呈されたが、それは全てレリットランスの踏破記念総合治癒院に寄付された。
シャアリィとアイシャは『廃棄の王』の魔石を使用した犯罪成果物使用の罪に問われたが、教会内部で内密に処理され、厳重注意に収まった。
フランシスコも、ギルド所有物横領幇助の罪に問われたが、アレクサンドルの支配下で著しい行動制限があったことを認められ、無罪放免。
何も気付かぬままアレクサンドルと同盟を組んだフリードリヒは、問われる罪もない。
アーシアンの民衆は、この顛末を誰も知らない。
カルテリアルの者達には箝口令が布かれ、教皇アレクサンドルはほんの数分の幻となった。
新教皇となったワイズリートの傍らに、ドラゴン・スレイヤーさえも寄せ付けない、『受難の聖女』がいることを考えれば、間違っても口を滑らせるわけにはいかないのだ。
ワイズリートの最初の仕事は、十年間という期間限定の北部ナセルバ迷宮の地域冒険者章の新規発行停止の教皇令交付。
各地の貴族たちは自領の再生に向けて貴重な時間を手にすることとなった。
それは冒険者達の生活、ナセルバの経済活動を維持する上での落し所。
・・・
アネモイは長く空けた時間で溜まった執務を片付けるべく、旅客専用車両に乗り込み、フリードリヒは、もう少しばかりの余暇を決め込んで、アーシアンに滞在。
フランコは、シャアリィとアイシャに付き合って、キャラバンでの移動。
短い期間になるはずだった同盟関係は、当面維持されることになった。
「フランシスコ枢機卿、肩でもお揉みしましょうか?」
と、シャアリィが巫山戯れば、アイシャも又、
「では、私めは御髪を整え致しましょう」
などと茶化す。
やれやれとばかりにフランコは、
「お前達、私の直属の騎士にならないか?」
と、アレクサンドルの厭らしい嗤いを真似する。
三人は帰路を楽しみながら、レリットランスへの五日の旅路を共有した。




