新教皇誕生
アレクサンドルの約定書提出から、一日を開け、教皇庁はそれを正式に受理した。
そして、その翌日、カルテリアルの面々に新教皇調印式が知らされた。
午後一時。
これまでの間、投票室として使われていた謀略の現場は、調印室へと姿を変えた。
一階の受付で、式に参加する騎士たちは武装の全てを預け、さらに保管庫には施錠が施される。
通路には十二名もの教皇庁衛兵が待機し、有事に備えている。
「これより新教皇調印式を行います」
教皇庁大司教、アーネストの言葉で、調印式が始まった。
「最終候補、前へ」
四人のカルテリアル代表枢機卿が一列に並ぶ。
その後ろには、各陣営が一塊となって式典を見守る。
居並ぶ列から、二人揃い、一歩踏み出せば遥か昔、学舎で見慣れた互いの顔。
「教皇選抜証人、ショット・ワイズリート枢機卿、前へ」
ワイズリートがさらに一歩前に立ち、参列者に向き直る。
「えー、私が得た一票をクリムゾン・アレクサンドル枢機卿との約定に従い譲渡、アレクサンドル卿が全ての票を獲得するに至りました」
「選抜証人として、調印し、それが間違いでないことを証します」
「選抜証人、調印」
アーネストの言葉のままに、ワイズリートは教皇確定証明書に中央大教会の印を押し、その下に自らの署名を書き加える。
「選抜証人、戻れ」
ワイズリートが代表枢機卿の列に収まり、向き直る。
「新教皇、調印」
一人、一歩前に残されたアレクサンドルが、前に進み、ワイズリートの隣に、西方大教会の印、署名を施す。
「注目」
アーネストが両手で証書を持ち、それを高く掲げる。
「第六十三代教皇クリムゾン・アレクサンドルより就任の言葉」
ワイズリート以外の全ての枢機卿が忸怩たる思いで、その言葉に耐える時間だ。
「錚々たる諸先輩方を抑え、教皇になれたことは私の人生の最高の喜び」
「そして、待ち受ける苦難の始まりであることを肝に銘じ、市井の人々の声にも耳を傾け、生涯を賭して救済の祈りに身を捧げることを誓います」
「打鐘傾聴」
教皇庁の鐘の音は、他の教会よりも重く荘厳な響き。
その鐘の音は六十三回打ち鳴らされ、新たな教皇が誕生したことを世に知らしめた。
「以上を持ちまして、新教皇調印式を終了します」
「皆さま、この度は長期間の教皇選抜お疲れ様でした」
「お気をつけて帰路について下さい」
直後、カイリィが、注意を発する。
「中央陣営、西方陣営は、そのまま待機を」
残されたのは、中央陣営二人、西方陣営六人。
「では、フランシスコ枢機卿、西方陣営の送り届けをお願いします」
「リーシャ・セロニアス・アビス殿、お一人でのお戻りが心細ければ、衛兵を伴わせますが、如何致しますか?」
リーシャは、笑って答える。
「遠慮するよ」
と。
部屋に残された、ワイズリートとアレクサンドル。
そこに衛兵が雪崩れ込む。
「クリムゾン・アレクサンドル」
「この時点より、貴殿の身柄は容疑者であり、その権限の全ては一時的に凍結される」
慌てふためくアレクサンドルを横目に、ワイズリートが嗤う。
「残念だね、クリムゾン」
「せっかくの教皇の椅子だが、きみはそれにただの一度も座れないんだ」
「罰が罪に追いつく、神学で習わなかったかい?」
カイリィが恭しく首を垂れ、
「教皇、後は我々が引き継ぎます」
と、言葉を掛けたのは、アレクサンドルではなく、ワイズリートだった。




