最後の交渉
フランコは、中央大教会の中にあるカフェ・ラウンジで時間を潰し、ワイズリートに言われた通り、四方八方を探したが会えなかったとアレクサンドルに報告した。
既に夕刻。
さすがにこの時間から、再び、中央大教会に押し掛ける訳にも行かない。
アレクサンドルは焦燥に駆られながらも、今日のワイズリートとの面会を諦めた。
午後八時。
食事を終えたアレクサンドルにやるべきことはなく、歓楽街に出掛けるような気分でもない。
シャワーを浴びればすぐに眠れると、本を片手に酒をちびちびと啜る。
不意に扉を叩く音。
用心しながらフランコが扉を開ければ、そこにはホテルの従業員。
「お客様に面会の方が来ております」
アレクサンドルは素っ気なく、
「夜も更けた、お引き取り願おう」
と、実に当たり前のことを従業員に伝えれば、
「お客様は、ショット・ワイズリート枢機卿なのですが・・・」
その名を聞けば帰らせるわけには行かない。
「ティー・ラウンジをすぐに貸し切ってもらいたい」
「少しばかり支度に時間が掛かるので、そこでお待ち頂きたいと伝えてくれ」
フランコが、数枚の銀貨を従業員に握らせる。
・・・
アレクサンドルが急いで聖衣を着直し、ティー・ラウンジに向かう。
そこに待っていたのは、街着姿のワイズリートとリーシャ。
ワイズリートが、騎士を伴っている以上、シャアリィとアイシャも呼び出された。
「夜分、遅く済まないね」
「フランシスコ大司教が随分と私を探し回ってくれていたと、教会の者から聞いたんだ」
「骨休めに街に出掛けてしまっていてね、間が悪かった」
「そこで慌てて、ここにやってきた、という訳だよ」
互いの陣営は少しばかり酒の匂いがする。
この時間、交渉のテーブルに着くなど考えもしないのだから、お互い様という所か。
「さて、次の交渉のカードだが、まぁ、これはアレクサンドル卿の心一つで決まることだ」
「誰にも迷惑は掛けないし、誰の助けも必要ない」
その言葉で、アレクサンドルが前のめりになる。
「一言で言えば、ここにいる騎士を全員、私にくれないか?」
「正しく説明するならば、ここにいる若者の処遇を一任してもらいたい、が、適切だね」
「その条件ならば、私は喜んで教皇の椅子を譲るよ」
まずは、と、ワイズリートがフランコを見やる。
「空席になる枢機卿の椅子に、彼を」
「出来る限り、彼の意志を尊重した上で、互いに影響力を行使しない」
次に、と、今度は視線をシャアリィとアイシャに注ぐ。
「彼女たちに教皇の権限を及ばせない」
「ドラゴン・スレイヤーを抱えたまま教皇になれば、他の枢機卿の反発は目に見えている」
「そんなことにも気付かず席を譲ったのか、と、私は後から責められたくないんだ」
「彼女たちがアレクサンドル卿に付き従うというのならば、せめて戴冠式の後」
アレクサンドルは、疑いの目をフランコに向ける。
「何故、フランシスコを枢機卿にする必要があるのです?」
「彼はまだ若い」
「適任は他の領地でも探せると思いますが?」
疑っているのは、ワイズリートとフランコの癒着。
「ああ、それでも構わないんだがね?」
「アネモイ領主との同盟の際、立ち会った者がその責を果たすのが筋だろう、と」
「それに、西方の枢機卿というのは、いろいろと難しいと聞く」
「迷宮の管理、そして・・・この場では口出せない例のモノの管理もだよ」
「諸々を考えた上で、適切な人選だと思うんだが」
ワイズリートは、わざとほんの少しだけ声を大きくする。
「何より、きみを教皇にした功労者だろう?」
「私としても、無責任という訳にはいかないよ」
ワイズリートは席を立ちあがり、
「いずれにせよ、正式な決定は明日にしよう」
「今日は皆、酒も入っている」
「一晩じっくり考えて、結論を出せばいい」
「だが、予め言っておこう」
「次の交渉はない、とね」
アレクサンドルの表情を見れば、明日を待たずに答えは出ている。
四人の騎士は、多分、その口元の醜悪な笑みを忘れない。




